10話 ネナシカズラ
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になかった。
ラウネシアとは予想以上の友好的な関係を築けている。感応能力が拾う彼女の感情は、大体が好感を伴っていた。
「では、ボクは少し離れます。食べ物を探さないと」
いつまでもラウネシアの果実だけに頼るわけにはいかない。ちゃんとした水源を見つけ、魚などの蛋白源を確保すべきだ。
ラウネシアから離れようとした時、それを呼び止める感情が背後から発せられた。
『お待ちください。森の中は危険です。亡蟲(ぼうちゅう)も出ます』
「ボウチュウ?」
聞きなれない単語に、思わず振り返る。
『この森と敵対する生物群です。大した知能は有しませんが、機敏に動く事が可能です。その機動力と繁殖力を以って、この森の原型種たる私に向かって度重なる侵攻を繰り返しています。森の中に浸透していることも珍しくありません』
森と対立する、生物群。
そして、もう一つ気になる言葉。この森の原型種。
「あの、ラウネシアはこの森の主のようなものなんですか?」
『肯定します。このラウネシアは森を指揮する立場にあり、現存する森の配置、移動、防衛計画は全て私が統帥しています』
その時、どん、と低い音が木霊した。
遠くから届く重低音。それが届いた瞬間、森の中がざわついた気がした。葉擦れの音が増大し、樹々が風もないのに強く揺れる。
『亡蟲の攻勢の合図です』
太鼓のような音が遠くから次々に響き渡る。それに呼応するようにラウネシアから怒りの感情が立ち昇った。
ボクは咄嗟に周囲を見た。木立の間には何も見えない。敵は、まだ接近していない。
『規模は少数。威力偵察の類型と判断します。私の下にいれば危険はありません。決して動かないでください』
何が何だか分からないうちに、争いが始まろうとしていた。
脳裏にこれまでに見てきた植物が走馬灯のように再生される。
まるで城壁のように真っ直ぐと群生するトゲトゲの植物。硬い木の実を任意に落とす事が出来る大木。ブービートラップのように張り巡らされた粘着質の雑草とギロチンのような植物。
全ては、この戦いの為に存在していたのだろう。
一個体の統制の下に、戦闘を遂行する軍団。組織的な戦争形態が、そこにあった。そして恐らくは、そこに非戦闘員の取り扱いに関する条約というものは存在しない。
ボクの身の安全はこのラウネシアの指揮に委ねられている。
死の香りが、鼻腔をついた。
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