8話 シメコロシノキ
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水圧を利用して一時的な瞬発力を見せる植物、というものはかなりの数が存在する。
しかし、このアルラウネの動きは、水圧を利用したものではなさそうだった。筋肉に似た独自の組織を保持し、それを維持する方法があるのだろう。
人に近い能力を保持しているとなれば、おのずとコミュニケーションもとりやすくなる。知能に近いものもあるかもしれない。この森についての情報を得られる可能性だってある。友好的な関係を築けば、あの果実を貰う事もできるだろう。
当面は唯一の食料があるここを拠点にして、周囲の探索を続けながら水源を探していくべきか。
星が空に見え始めるに従い、うとうとと眠気が襲ってくる。疲労が溜まっているようだった。森の香りが心を落ち着かせ、眠りに誘う。
「カナメ。君はまるで自然の寵愛を受けているようだ。その感応能力と、植物学者の父。そして、その真っ直ぐな感性。正しい理解を深めるに相応しい状況が整っている。そんな君が、人間に対して嫌悪感を抱くのは分かるよ。全てが不自然に見えるんだろう。まるで、人間が異物のように感じられる。私自身も幼少期からずっとそう思っていた。人の思考というものは複雑で、奇怪で、読みづらい。そして見えない力を必要以上に恐れる。本当に、異物のようで、同じ種族とは思えない」
いつか、由香が言った言葉。
その通りかもしれない。
人の世界に、ボクは嫌悪感に似た何かを抱いていた。
心を読めない人間という種族が、ずっと遠くのもののように感じていた。
人のいないこの森は、とても落ち着く。
それでも、待っている人がいる。由香が、いる。
徐々に探索範囲を広げ、帰り道を見つけなければならない。
眠気で、思考が鈍っていく。
考えるのが億劫になり、ボクは呆気無く意識を手放した。
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