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樹界の王
5話 アレチウリ
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械的受容器と呼ばれるものだ。これに対し、痛みを司るものは侵害受容器であり、これらはルーツからして根本的に別の現象として経験される。だからボクたちが利用する一般的な鎮痛剤は機械的受容器の信号には関与せず、侵害受容器の信号のみに影響を及ぼす為、痛みと同時に触覚が麻痺することはない。そして、植物は痛みを覚える受容器そのものを持たない。植物は痛みを感じるルーツ、そして痛みを経験する主観の両方を持たない為に、痛みという現象そのものを理解できない。そして、これは植物が進化の過程で得た戦略の結果の一つであって、その植物性は擬人化によって軽んじるべきものではない。人に優しく撫でられる事、理不尽に葉っぱを千切られる事、その二つは植物にとって大差のない脅威でしかない。
 夢に出てきた幼き頃のボクの見解は間違っていないと今でも思う。誤っていたのは、その表現の方法。植物は痛みを覚えない。それは事実だったが、ボクの言い方はまるで植物が生命ではないかのような誤解を与える結果になった。あの頃のボクは植物の心を読み取れる故に植物に対して誰よりも深い理解を示していたが、反対に心の動きが全く読めない人間という同族を理解できずにいた。ボクにとっては、心を直接読み取れる植物の方が、同族である人よりも身近に感じられていたのだ。
 由香以外と人並みの交友関係を築き始めたのは、中学に入ってからだった。園芸部に入り、植物を介して人とも繋がるようになった。このようにボクの生活の中心には、いつも植物がいた。
 そして、今。目の前には植物のみが広がり、人の姿はどこにもない。けれど、奇妙な安堵感があった。生まれた街に帰ってきたかのような、不思議な感覚。この不思議な感覚はなんなのだろう。
 ぼんやりとしているうちに、寝転がっていた雑草たちが濡れ始める。溢水だ。夜間に植物が貯めこんだ水分が早朝に溢れ出す現象。朝に草花が濡れているのは露の影響もあるが、この溢水によるものも多い。
 この時間帯は水源がなくても植物から多量の水を確保できる。朝日が出る前にボクは行動を開始した。そして、ゆっくりと空が白ばんでいく。
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