3話 マカダミア
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がる青々とした葉に混じって黒い実がぽつぽつと見える。
助かった。
力が抜けて、自然とその場にへたりこむ。
落ち着くと、周囲の植物が怒っているのが分かった。
ふと、この実を落としたであろう巨大な樹木を見上げる。
「……助けてくれたの?」
返答は、ない。植物に発話機構は存在しない。
しかし、肯定するように穏やかな感情が伝わってきた。
「……ありがとう」
理屈は分からないが、ここの植物たちには意思のようなものがあるらしい。
立ち上がり、倒れたままの豚男へゆっくりと近づく。豚男が動く様子はない。割れた頭部から溢れ続ける血。放っておけば死んでしまうだろう。
近づくと、悪臭がした。腐臭のような、独特の臭い。顔を覗き込むと、どう見ても仮面を被っているようには見えなかった。本物の肌だ。そして、この豚男が握ったままの斧。随分と使い古されている。
ボクは黒い実を落として助けてくれた樹木と、目の前の豚男を交互に見つめた。それから、青空に輝く二つの太陽を見上げる。
得体のしれない恐怖感が、胸の奥で渦巻いた。
携帯を取り出し、画面を確認する。変わらない圏外の文字。
バッテリーを節約するため、電源を落とす。
嫌な汗が額に滲む。
ボクは最後に一度豚男を一瞥すると、斧をその手から奪い取った。それから、歩き出す。
水が、必要だ。
食料も。
山道の散策は中止。今すぐ使えるものの散策を行うべきだ。
目印は、もう置かない。そんな余裕は、もうどこにもない。
日没が迫っている。夜に備えなければならない。
そして、この遭難が長期間に渡るならば、蛋白源を確保する必要がある。
夜まで、それほどの時間は残されていない。
漠然とした恐怖感に突き動かされるように、ボクは本格的に動き出す。歩き回ればいつかはキャンプ場に戻れるだろう、という甘い認識はこの時、跡形もなく砕け散った。
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