暁 〜小説投稿サイト〜
樹界の王
3話 マカダミア
[2/2]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
がる青々とした葉に混じって黒い実がぽつぽつと見える。
 助かった。
 力が抜けて、自然とその場にへたりこむ。
 落ち着くと、周囲の植物が怒っているのが分かった。
 ふと、この実を落としたであろう巨大な樹木を見上げる。
「……助けてくれたの?」
 返答は、ない。植物に発話機構は存在しない。
 しかし、肯定するように穏やかな感情が伝わってきた。
「……ありがとう」
 理屈は分からないが、ここの植物たちには意思のようなものがあるらしい。
 立ち上がり、倒れたままの豚男へゆっくりと近づく。豚男が動く様子はない。割れた頭部から溢れ続ける血。放っておけば死んでしまうだろう。
 近づくと、悪臭がした。腐臭のような、独特の臭い。顔を覗き込むと、どう見ても仮面を被っているようには見えなかった。本物の肌だ。そして、この豚男が握ったままの斧。随分と使い古されている。
 ボクは黒い実を落として助けてくれた樹木と、目の前の豚男を交互に見つめた。それから、青空に輝く二つの太陽を見上げる。
 得体のしれない恐怖感が、胸の奥で渦巻いた。
 携帯を取り出し、画面を確認する。変わらない圏外の文字。
 バッテリーを節約するため、電源を落とす。
 嫌な汗が額に滲む。
 ボクは最後に一度豚男を一瞥すると、斧をその手から奪い取った。それから、歩き出す。
 水が、必要だ。
 食料も。
 山道の散策は中止。今すぐ使えるものの散策を行うべきだ。
 目印は、もう置かない。そんな余裕は、もうどこにもない。
 日没が迫っている。夜に備えなければならない。
 そして、この遭難が長期間に渡るならば、蛋白源を確保する必要がある。
 夜まで、それほどの時間は残されていない。
 漠然とした恐怖感に突き動かされるように、ボクは本格的に動き出す。歩き回ればいつかはキャンプ場に戻れるだろう、という甘い認識はこの時、跡形もなく砕け散った。
[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ