2話 ヒガンバナ
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た植物は未だに続き、ボクの行動範囲を狭めている。目印の為に葉裏に描いた数字は二〇〇を超えた。正確に五メートルごとに目印を置いてきたならば、一キロメートルは進んだ事になる。
ボクは一度足を止めると、トゲに満ちた城壁を見つめた。この群生するトゲトゲの植物はこれまで途切れる事なく真っ直ぐと続いている。まるで、人工物のようだった。
ヒガンバナ、という花が頭によぎる。墓地によく生えている植物だ。正確には、人によって墓地に植えられた植物。毒があるため、土葬していた時代にモグラなどを寄せ付けない為に植えられたものだ。植物は古来から天然の防御壁としても利用されてきた。この真っ直ぐと続く城壁のようなトゲトゲ植物も、誰かが土地を獣から守るために植えたものかもしれない、と思った。
この先に、人がいる可能性がある。ならば、どうにかしてこの城壁を越えなければならない。そっとトゲトゲ植物に近づいて手をかざす。
強い敵対心を持っているのがわかった。しかし毒を持つ植物特有の突き刺さるような熱い感情は感じられない。
確実にこの先に人がいるならば無理にでも通るべきかもしれない。しかし、もしも人がいなければ、不用意に傷口を作るのは危険だ。今の状態で感染症にかかれば、確実に命を落とす事になる。
「誰かいませんか!」
城壁の向こうに大声で問いかける。静かな森の中で、ボクの声は一際大きく聞こえた。
「道に迷ってしまって。誰かいたら返事してください」
返事はない。そよ風に揺れる木立の音だけが木霊する。
だめか、と諦めかけた時、不意に目の前のトゲトゲ植物が大きく揺れた。そして道を作るように大きく左右に分かれる。同時に、トゲトゲ植物が放っていた敵対心のような感情が霧散した。
「……通れ、ということ?」
ボクの独り言に呼応するように、肯定的な感情が目の前のトゲトゲ植物から発せられる。
ありえない、と頭の奥で理性が叫んでいた。
植物は視覚、触覚、嗅覚に類する能力を保持している。しかし、聴覚に類する能力を有するという研究結果は出ていない。少なくとも、科学的に、数量的にそれを示すまともな論文は存在していない。
しかし、目の前の植物はどうやら人間の声を、音を拾っているらしい。確かに、既知の植物以外であれば、そうした固有能力を獲得するに至ったものが存在しても不思議ではない。しかし、それはボクの持つ常識から大きく外れていた。
ボクが通るのを待つように道を開けるトゲトゲ植物。ゆっくりと、慎重にその道を通る。服にトゲが引っかかって、一部が破れてしまう。
無事に通り抜けると、役目を終えたようにトゲトゲ植物は元に位置に戻り、何事もなかったかのように道を塞いだ。
「……ありがとう」
お礼の言葉を投げかけると、トゲトゲ植物がそれに応えるように揺れた気がした。
植
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