”狩人”フリアグネ編
四章 「名も無き少女」
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それに、どうやらこの少女は坂井悠二の身体が作り変わる様を目撃していたようだ。嘘をついても意味がない。ついた所で罪が消える訳もない。
「あぁ、確かにこの身体は俺の物じゃない」
「ふん、なら尚更ね。とにかく、お前だって気付かなかったんだから、別に思い煩う必要はないわ。後悔なんてした所で何の意味もない。ただ無駄なだけ」
「………」
確かに後悔をした所で、何も変わらない。
平井ゆかりと坂井悠二の二人は、俺や周りが認識出来たかどうかに関わらず、その存在を失っていた。
例え、その結果を俺が知っていたとしても、俺に出来る事は無かっただろう。
だが、出来る事がなくとも、それが何もしなくてよいという理由にはならない筈だ。この世に無駄な事なんてない。この件については尚更、無駄な訳がないだろう。それは、きっと偽善と言われるのだろうが。
今の俺には、これ以上犠牲者を増やさない為に戦う事しか出来ない。
そして、せめて俺だけでも彼女達の事を忘れずにいよう。
今、ここに座っている“平井ゆかりとして座っている少女”と“衛宮士郎”は、かつて“平井ゆかり”と“坂井悠二”という存在だった事。そして彼女達は、この世界で生きていたという事。
それを俺が覚えている事が、彼女達が存在した唯一の証なのだから。
「なら―――、あんたの名前は?」
その為にも、これだけは聞いておかなければならない。
「名前?」
「フレイムヘイズってのは“紅世の徒”ってのと戦う奴らの総称だろ。なら、あんたの名前はなんて言うんだ?」
俺の中で、彼女を平井ゆかりとは違うと明確化する為にも、彼女の本当の名前を知っておく必要がある。
「………え」
その質問に少女は不意に顔を曇らせた。俺の錯覚であるだろうが、寂しさの端を僅かに覗かせて。
だが、何故その様な反応を示したのか、見当もつかない。それほど難しい質問をしたつもりはなかったからだ。
少女はただ、胸に下げている、あの声が出るペンダントをもて遊んでいる。彼女との会話の経験から無視を決め込まれると俺は予想していた。自分から質問はしても、他人からの質問には必要最低限しか答えないタイプと思ったからだ。
すると、予想に反して少女は小声で答える。
「私は、このアラストールと契約したフレイムヘイズ、それだけよ。それ以外に何も無いわ」
何もない―――つまり、名前がないという事だろう。
「名前が――ないのか」
少女の顔から寂しさは消えていたが、今までの平然とした顔ではなく、表情の消えた顔だった。だが、何故だろう。俺にはその無表情が必死に感情を殺している様に見えた。
名前―――、それは自分の親が与えてくれるこの世界との最初の接点。自分自身を証明する絶対の存在。自分自身と言っても過言ではないだろう。だ
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