”狩人”フリアグネ編
三章 「御崎市」
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い、聖杯戦争をきっかけに家族を得る事になったんだよな。
けど結局、母親のポジションには誰もなれなかった。イリヤとセイバーはあえて言わないが、ライダーはお姉さんって感じがするし、桜もどっちかと言うと妹みたいなもんだしな。遠坂は―――、やめとこう。考えると、なんか恥ずかしくなってくる。
とにかく、俺の人生にとって坂井千草は初めて“母親”と呼べるポジションの人なのかも知れないな。
―――誓って言うが、結果的に身体が若返って、お盛んな思春期高校生になった訳でもなければ、俺はマザコンという訳でもない。
さて肝心の凝視していた理由だが、彼女の正体を確かめようとしていた。
結果として、彼女はトーチではない。胸に灯は点っていないからな。
つまり、彼女はれっきとした人間だ。
そこで何か引っ掛かる物があった。
あの少女は、確かトーチの事をなんと言っていただろうか?
――――存在の消滅が世界に及ぼす衝撃を和らげる為に置かれた代替物『トーチ』……それがお前よ。
衛宮士郎という存在が坂井悠二という存在を上書きした時、坂井悠二は文字通り“最初から存在していなかった”事になった。確かに現在の自分は特殊な境遇ではあるが、基本的にこの身がトーチであることに変わりはないと思われる。
つまり、消えてしまった坂井悠二と同様に、衛宮士郎も消えてしまえば存在していなかった事になるのだ。
悲しみを後に残す事無く消え行くのは、死ぬ事よりはマシなのかもしれない。
だが坂井夫妻はいきなり、子どもを持たなかったことになる。子供を生み育てた、決して短くはない時間を無駄にさせた。
殆ど他人と言って良い俺ですら、この様に感じるのだ。
この結末を坂井悠二はどう思うだろう……。
「なに、ボーっとしてるの士郎君。もう出る時間でしょう?」
「――――ッ!?」
おっと、今は考え事をする時間はないんだった。千草の声で我に返り、残りの飯をかき込む。
せっかく作ってくれたのだから、残すわけにはいかない。今は味わう余裕もないが、シンプルながらも丁寧な朝食だった。
次の機会こそはしっかりと味わって食べたいものだ。
「ごちそうさま―――ッ!」
味噌汁で朝食を胃に押し込み、階段を駆け上がる。
士郎は制服を着て、鞄を引っ掴んだ。そこで、授業の用意をしていないことに気付き、今日の授業で使いそうな教科書を鞄に押し込む。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
千草と軽く声を交わして家を出る。
俺が色々と悔やんだところで、坂井悠二が消えて衛宮士郎と挿げ替わり、そして消えてしまうという事実は変わらない。
そんな事は分かっている。
分かってはいるが、俺は………。
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