第二部
第一章 〜暗雲〜
九十七 〜嵐の前の静けさ〜
[6/6]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
。
……待てよ。
「では、また明日にでも様子を見に来る。ゆっくり休めよ」
「わかった」
華佗が出て行った。
翡が病を得たという事は、涼州軍は動けぬと言う事か?
代理で翠が率いる可能性もあるが、いきなりの指揮権譲渡は思うに任せぬ事が多い。
如何にあの馬超とは申せ、まだ若過ぎる上に経験も不足しているのだ。
それに、月との関係もある。
……動かぬな、これは。
真偽の程は定かではないが、華佗の耳にまで入るという事は余程の重態か、或いは意図したものか。
いずれにせよ、西から脅かされる懸念だけはなくなったと見て良いな。
「歳三。入るわ……っ!」
慌てた声に振り向くと、詠が立っていた。
耳までに真っ赤に染まったまま、固まっている。
「如何致した?」
「な、何でもないわ!」
そう言いながらも何故か、視線を逸らそうとする。
「さ、さっさと服を着なさいよ!」
「おお、華佗の診察を受けていたのでな」
どうやら、男の裸は見慣れておらぬようだな。
普段は強気な詠にも、このような一面があったとはな。
だが、重ねて困らせる趣味は持ち合わせておらぬ。
「すぐに着替える故、暫し部屋の外で待て」
「い、いいわよもう! 夕食の支度が出来たから、さっさと食堂に来なさい!」
逃げるように、詠は走り去っていった。
そして、食堂にて。
「詠ちゃん。一体どうしたの?」
「な、何でもないわよ」
「でも、顔が赤いし。熱でもあるの?」
「だ、だから何でもないって言ってるでしょ!」
真顔で心配する月に、詠の顔は赤くなるばかり。
「うふふ、純情ねぇ」
「う、うるさいわよ紫苑!」
全く、戦を目前に控えているとは思えぬ雰囲気だな。
と、詠が私を睨み付けてきた。
「何を笑ってるのよ、歳三!」
「笑ってなどおらぬぞ?」
「何言ってるのよ! 今口元に笑みが浮かんでいたわ!」
つい、微笑ましさが出てしまったか。
気の緩みは禁物だが、適度に硬さが取れるのならば悪くないな。
「にゃ? お兄ちゃん、食べないのか?」
「いや、いただこう」
鈴々は場の空気などお構いなしに、旺盛な食欲を見せている。
……今は、この一時を噛み締めるのも一興か。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ