第二部
第一章 〜暗雲〜
九十七 〜嵐の前の静けさ〜
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ておくべきと断った。
……霞が無念そうにしていたが、仕方あるまい。
「土方、入るぞ」
華佗が、道具箱を手にやって来た。
「傷の具合を確かめておこうと思ってな。今良いか?」
「ああ、頼む」
上着を脱ぎ、臥所に横たわる。
桶で手を洗ってから、華佗は患部に触れた。
「どうだ、痛むか?」
「些か、な。然したる事はないが」
「そうか。どうやら、土方の薬も効いているようだな」
試みにと石田散薬を服用したのだが、どうやら傷の治癒にも効くらしい。
私が知る限りでは、そのような効能はない筈なのだが。
……張世平め、何か手を加えたのか?
今度会う機会があれば、一度問い質しておくか。
「だいぶいいようだな。これならば、二、三日で軽い運動ならば可能になるだろう」
「そうか。剣を振えるのはもう少し先か?」
華佗は苦笑して、
「医者としては、当分大人しくしていろと言いたいところだがな。そうもいかないのだろう?」
「ああ。戦が控えているのだ、私がただ座している訳にはいかぬ」
「仕方ないな。だが、一週間は我慢しろ。そうでなければ傷が開く恐れがある」
「一週間か。わかった」
「一応、鍼を打っておくか?」
「頼む」
微かな痛みの後、患部が暖かいものに包まれていく。
鍼治療を知らぬではないが、華佗のそれは独特のものと言わざるを得まい。
「ところで、華佗」
「何だ?」
「周瑜の治療を行ってくれたそうだな。礼を申すぞ」
「ああ、その事か。医者として当然の事をしたまでだ」
「もし、仮にだが。お前が治療を行わなかったら……どうなっていたと見る?」
「ふむ……」
華佗は少し考えてから、
「もって十年と言ったところか。ただし、それも静養に務めてだが」
「やはりか」
「ああ。本人には自覚症状があっても、それを言わなければ周囲は気がつかないだろう。だが土方、お前は知っていた」
「…………」
「何故、と聞きたいところだが。答えを聞くだけ無駄なのだろう?」
「そうだな。卑弥呼や貂蝉あたりに尋ねてみるか?」
「いや、いい。他人を詮索するのは趣味ではないのでな」
そう言うと、華佗は鍼を抜いた。
「華佗。いつまでこの地に留まるつもりだ?」
「そうだな。お前の傷が癒えるまで、と言いたいところだが……涼州に行かねばならん」
「ほう。翡(馬騰)のところか?」
華佗は、一瞬驚いたように私を見た。
「良く知っているな。いや、同じ理由だな?」
「いや。だが、涼州で疫病が流行っているとの報告は聞いておらぬ故、もしやと思ったまでだ」
「そうか。どうやら吐血を繰り返しているらしい、手遅れかも知れんが放ってもおけん」
馬騰は確か、曹操に殺されたというのが私の知識。
尤も、この世界の華琳が同じ真似をするとは限らぬが
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