第二部
第一章 〜暗雲〜
九十七 〜嵐の前の静けさ〜
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日であった。
皆が、各々の任務で動き回っている。
「ご主人様」
そんな中、朱里が竹簡を抱えて執務室に入ってきた。
戦争を前にしているとは申せ、書類がなくなる訳ではない。
月と机を並べ、落款を行う時間が増えていた。
「ご苦労。糧秣の方は順調か?」
「はい。干魃がありましたので不安は残りますが、今のところは予定通りに集められそうです」
「そうか」
「それから、ご報告があります。宜しいでしょうか?」
「うむ」
朱里は一呼吸おいて、続けた。
「洛陽の民なんですが」
「避難の件ですね」
常日頃から、月が気にかけている事項の一つである。
「そうです。……実は」
「何か問題でも? もし手が足りないのなら、何とかします」
「い、いえ。そうではないんです」
慌てて手を振る朱里。
「……避難希望者を募集したのですが、申告が一件もないんです」
「一件も? で、でも何度も周知徹底を行った筈です」
「そうなんです。漏れや間違いがあってとは思い、城下の古老さん達のところを訪ねて回ったのですが……」
ふむ、そういう事か。
「皆、月の下を離れるつもりはない……そう答えたのだな?」
「その通りです、ご主人様」
「そ、そんな! この洛陽に残れば戦に巻き込まれるのに」
飛び出そうとする月の手を、咄嗟に掴んだ。
「何処へ行く?」
「決まってます! 私自身で、民の皆さんを説得してきます!」
「馬鹿を申せ。お前が赴いたとて、庶人の決意は変わらぬぞ?」
「いいえ。それでも、私には皆さんを巻き込む訳にはいきません」
「気持ちはわからぬではない。だが、庶人の意を汲んでやる事も必要ではないのか?」
「…………」
月は唇を噛み締め、俯く。
「月さん。ご主人様が仰せの通り、重ねての説得は無意味だと思います」
「朱里さん……」
「私も、守るべき存在である民の皆さんを、出来る事なら一人も傷つけたくはありません。ですが、この洛陽を出たところで、皆さんはどうすればいいのでしょう?」
「当てはある筈です。曹操さんとか、劉表さんとか。袁紹さんのところでもいいと思います」
朱里は、辛そうな顔をする。
「駄目なんです、それでは。皆さん、月さんだからこそ従うと言っているのですから」
「……お父様。せめて、詠ちゃんに一度」
「無駄よ。朱里がそのぐらいの事、わかってない筈ないじゃない」
詠が、霞と連れだって入ってきた。
「詠ちゃん……」
「月。アンタの理想、出来る事なら叶えてあげたいわ。……でもね、これは庶人の方から望んだ事なのよ」
「せや。それとも、無理矢理洛陽から追い出して欲しいんか?」
「違います! ただ、私は……」
「ただ、何? 霞の言う通り、庶人の意思を無視して自分の想いだけを押しつけるの?」
いつになく
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