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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第八十二話 フェザーン謀略戦(その4)
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平、か」
絞り出す様な声だった。その声に周囲がざわめく。同盟との和平、帝国貴族である彼にとっては仮定の質問でも答え辛いものだっただろう。

「そうなりますね、帝国と同盟の間で和平、或いは休戦条約を結ばせようとするでしょう……。しかしアドリアン・ルビンスキー、彼は何もしていない。その理由は?」
「……」
俺が問いかけてもレムシャイド伯は沈黙するだけだ。答えるのが怖いのか……。

「気付かないほど愚かなのか、或いは彼にとってはフェザーンの繁栄は絶対のものではなく他に優先すべきものが有るのか……、どちらだと思います?」
誰もが同じ答えを出すだろう、ルビンスキーは愚物ではない……。

レムシャイド伯が唸り声を上げた。そして俺に視線を向けた。
「ヴァレンシュタイン、かの亡命帝、マンフレート二世陛下が暗殺されし時、その背後にフェザーンがいると噂されたそうだがあれは事実という事か……」
「そういうことでしょうね」
俺と伯の会話に皆がざわめいた。ローゼンリッターだけじゃない、拘束されている帝国軍兵士も驚きの声を上げている。

「事実なのか、事実なのだな、ルビンスキー」
押し殺した低い声だ、怒りに沸騰しそうなほどに煮えたぎっている。しかしルビンスキーは動じなかった。無表情に正面を見ている。

「中継貿易の利を独占するためと噂されたが真実は帝国、そして同盟を共倒れさせるためか!」
レムシャイド伯は吐き捨てる様に言うと隣に座るルビンスキーを睨み据えた。視線で人を焼き殺せるならルビンスキーは焼死していただろう。それほど激しい視線だ。

「いや、レムシャイド伯、事態はもっと深刻だったと思いますよ、地球にとっては」
「深刻? どういう事だ、ヴァレンシュタイン。一体何が有ったのだ」
訝しそうな声だ、そして不安に溢れている。

喉が渇いた、ペットボトルから水を一口飲む。レムシャイド伯が俺を見ていた、ペットボトルをレムシャイド伯に差し出すと伯はちょっと戸惑った様子を見せたが受け取って一口、二口と水を飲んでから俺に返した。

お互い無言だ、会釈もなければ愛想も無い。それでも伯からは敵意のようなものは感じられなかった。今の彼にとって敵はルビンスキーであり、俺は三割くらいは味方だろう。

「マンフレート二世は亡命者でした。幼少時に暗殺者の手を逃れ自由惑星同盟で育った。彼の持つ価値観は帝国人よりも同盟人に近かったでしょう。或いは同盟人そのものだったかもしれない。当時の同盟の政治家達がマンフレート二世を帝国に送り返す事で和平を、帝国の国政改革を期待した事を考えるとそう判断せざるを得ません」

「……なるほど、それで」
レムシャイド伯が先を促す。気が付けば伯は身を乗り出していた。切迫感もあるのだろうが元々この手の歴史関係の話が好きなのかもし
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