閑話4 〜彼女達の日常
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時の流れは優しくもあり、残酷だ。あたしが執務官になってから随分と経つが、未だにあの頃の仲間と定期的に連絡を取り合っているかと思えば、今は何をしているのかわからなくなってしまっている者もいる。今はそれぞれの道を歩いている仲間達。瞼を閉じれば、鮮やかに思い出すことが出来るあの頃の思い出。今から語ることになる思い出は、全てあたしが経験した物もあるし、人から聞いた物をあたしが一部再構成した物もある。中には本当に──── 夢のような話もある。昔話をしてしまうほど年齢を重ねてしまったとは思いたくはないが、今日はほんの少しだけ。語りたいと思う。
──── いい? これは夢なのよ。
さて、あたしが間抜けにも囚われた上に監禁され、あわや貞操の危機であった忌まわしき事件の傷も少しずつ癒え始めた頃。アスナがぽろっと口を滑らせてくれたお陰で、お兄さんにあたしの下着が見られたことが発覚した。暗雲のようなあたしの心を癒やす為にバカスバルに制裁を加える事で、今の晴れ渡る空のようにすっきりしたので取り敢えずは良しとしよう。
あたしは定番となりつつある中庭のテラスで束の間の休息を楽しんでいた。心地よい陽射しと、美味しい紅茶。早朝訓練の疲れもあり、不覚にもあたしが船をこぎ始めていた頃に訓練用のカーゴパンツを誰かに引っ張られる感触で、あたしの意識は覚醒した。あたりを見渡しても誰もいない。
寝ぼけていたのかと首を傾げていると、また裾を引っ張られた。あたしがそちらへ意識を向けるとそこにいたのは──── アスナだった。こちらを不思議そうに見上げている。
「どうしたの、アスナ」
「……なにしてるの?」
「何してるって……見ての通り休憩。あたしに何か用?」
あたしに尋ねられたアスナは、何も答えずに硝子玉のような瞳をあたしに向けるだけだった。そうしている内に結局アスナは何も言わずに隊舎へと戻っていく。大抵何を考えているかわからない娘だが、今日はそれに輪を掛けてわからない。いったい何がしたかったのか。左手首に巻かれている時計を見ると、もう休憩も終わる時間だった。今日の時間泥棒は随分と仕事熱心らしい。あたしは冷めてしまった紅茶を飲み干すと、隊舎にあるロッカールームへと急いだ。
六課職員であるあたし達の日常業務は割と地味だ。魔導師と言えば派手なイメージがあると思うが、平時に於てはデスクワークが主な仕事になる。今日の訓練での自己評価や、各種報告書などをやっつけて凝り固まった体を解すように伸びをする。ふと気が付けば、アスナがいない。先ほどまでいたキャロの姿も見えない。
「スバル、アスナとキャロって何処行ったの?」
スクリーンに齧り付いて報告書を四苦八苦しながら仕上げていたスバルが面倒くさげに答える。
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