再び謎へ迫っていく
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三々へ入ろうとしている。地を広げなければ。私が打った手に対して塔矢先生はツケ。次は、上辺。サガリか、ハネ。勝負はまだ始まったばかりだ。高まる鼓動を落ちつけようと呼吸を意識的にした。数秒後に白石がサガリに置かれた。ここで私がツケないと、私の陣地へ後々侵入されてしまう。
藤原佐為。夏から急に僕たちの前に現れた、プロ並みの力を持つアマチュア。そして何故か、進藤がやけに入れ込んでいる。個人指導だと?あの進藤が。この盤面を見て進藤の力の入れようは否定できない。九月の時より数段成長している。進藤は彼の才能を見抜いてずっと指導していたのか?いや、彼は元々才能に満ちていた。進藤が教えてやる必要もない。ならば何故・・・。
塔矢アキラは握りこぶしを膝の上で震わせながら、佐為の瞳をじっと見た。佐為は難しい顔をして碁盤と対峙している。
ぱち。
暖房がよく効いているはずなのに、鳥肌がたっている。一手一手を見るたびに手首から肩まで寒気が通っていく感覚にどうにかなりそうだった。
お父さん。いきなり僕に佐為さんと今度打つ約束をしたからと、僕を間に佐為さんと生の交流を持とうとした。父が進んで打とうと誘う相手など数えるほどしかいない。相手が勝手に周りにくるのも理由だろうが。先日のネット碁の対局は僕も見た。その時僕はちょうど指導碁の予定が入っていたからリアルタイムでは観戦できなかったが、棋院ですぐに知ることができた。お父さんと佐為さんの対局の翌日、棋院に行ってみると、案の定みんなが集まってその対局の検討をしていたのだ。指導碁でも何でもない、真剣勝負だった。父の一手一手から伝わってくる、気迫。気になったのが、やはり、佐為さんの打ち方。前に緒方さんと打ったときと同じで、秀策が垣間見える。
秀策。最強と謳われる棋士の一人。進藤が異常な反応を示す、秀策。僕は覚えている。高永夏が秀策を馬鹿にしたと進藤が勘違いした時の進藤を。秀策が君に何の関係があるというんだ。そして、sai。現代に蘇った本因坊秀策。お父さんはまだsaiを探している。佐為さんにsaiを見たのか?緒方さんと同じように。いや、でも、saiは・・・saiは、昔の、昔の進藤だ。
昔の進藤・・・。最近昔のことばかり振り返っている気がする。
―逃げるなよ、一局打とう―
―だってあの子、対局は初めてだって―
―お前、俺の幻影ばかり追ってると・・・―
昔に、答えがある・・・。
―本当の俺に・・・―
本当の俺?幻影?
分からない。どこからヒントを拾えばいいのかも分からない。
―もう打たない―
しかし、僕はまた進藤の謎に迫ろうとしている。
アキラは唇を噛みしめ終局まで見届けた。
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