糸紡ぎ 蓮
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「一回で出来るとは思っていない。何度か繰り返して覚えるんだ」
剄脈とは人間に必要な臓器ではない。
心臓のように血を送り出すわけでもなく、肺のように酸素を送り出すわけでもない。
肝臓のように栄養を貯めるわけでも、腎臓のように血液を濾過するわけでも、醉象のように消化酵素を含む液を出すわけでもない。
人体が生きる上で必要な役割を持っているわけではないのだ。
見る・聞く・味わう・触れる・嗅ぐ。五感のように勝手に使えるものでも、無くてはならないものでもない。
だから、知覚する必要があるのだ。
それが「有る」事を知らねばならない。
眼が見えぬ人は空の青さを理解できない。
鼻が利かぬ人は四季の花々の匂いを知らぬ。
耳が聞こえない人はピアノの奏でる旋律が分からない。
夢想することすら出来ない。
それを理解するために。ただ生きる上では使わぬそれを使うために。
新たな感覚であるそれを。本来要らぬはずの臓器を「要る」とし扱わねばならない。
だからこその「剄息」。
生物ならば草木から人に至るまで行う生命維持活動である呼吸。息を吸うという行為。
それを剄脈で行わせる。
酸素を運ぶ血の代わりに剄を。血を運ぶ血管の代わりに剄路を。
体の認識を書き換える。それを刻み込ませる第一歩がこの訓練だ。
「剄脈に息が送り込めたら今度はそこから上へと送り出して息を吐け。そしてそこを通らせて今度は息を吸ってまた剄脈へ。腹を経由せずに直に剄脈へ送り込めたら成功だ。そら、また肩が木から離れている。力を抜け」
トン、と叩いてレイフォンの肩を木へと戻らせる。
問題なく剄脈を通らせ循環させられれば成功。剄脈から送り出されるのは単なる息のイメージではなくいずれ剄となり、通る道は剄路となる。
慣れれば息をせずとも意識だけで剄脈から剄を送り出せるようになる。
だがそれはまだ先の話だ。今はまず意識して剄脈を自覚できるところから。
鋼糸を見れたようにレイフォン自身は剄を扱えているフシがあるが自分の意志で明確なコントロールは出来ていない。
何となく、の無意識ではダメなのだ。何となく、で出来たものはスポーツで言うスランプのようにある日不意に「何となく」出来なくなってしまう可能性がある。
戦いの中、ふと混乱した意識でそれが起こってしまっては最悪だ。
明確な自意識の元扱えるようにならなくてはならない。
レイフォンの額にシワができればそれを突き、肩が離れれば押し戻す。
呼吸だけなのに大変で、何でもないその行為。次第に減っていくその動き。
目を閉じて呼吸に専念するレイフォンは何も言わない。
静かだからこそ、思考がよそに飛ぶ。過去に飛び、かつてされた行為が、そのときしていた誰かが、今の自
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