糸紡ぎ 蓮
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息が体の中で背中側を通るように意識しろ。背中に手を当てるぞ。もう一回なぞる。それに合わせて一度深呼吸しろ」
ゆっくりとなぞるのに合わせレイフォンは息を吸い、少し溜め、そして吐く。
「今のを繰り返せ。次第に体が温かくなってくる」
ゆっくりと吸い、溜め、吐く。次第にそのペースをゆっくりに。吸う時間を長く、溜める時間を伸ばし、ゆっくりと吐く。
その様子を見ながら、小さく呟く。
「……「全ての基礎は活剄であり、自らの体をもって異物を知覚し同化させること。本来人には要らぬはずの器官を使うならばそれが『有る』ことを理解せねばならない。身の外に置く武具に及ぼし手足とするならば、まず第一に取る武具とは己の身である」だったか」
今では己の背に控える者たちの一人となった、かつての師の、父の言葉。
己の身に武芸者としての基礎を教え、道義を説いた父の言葉は覚えていてもあの日、彼がどんな顔をしていたのかまでは思い出せない。
子を見る親の顔で笑っていたのか。
信義を重んじる一人の武芸者として凛とした顔をしていたのか。
少なくとも戦いをたった一人に押し付ける事を誤魔化し正当化する卑屈な顔では……それが我が子であるという罪悪感に塗れた顔ではなかったはずだ。
あれから二十年ほど。今の自分はどんな顔をしている。
どんな顔で、あの日教えられたことを目の前の子供に教えている。
「んー。ぽかぽかしてきたー」
レイフォンの声に意識を戻される。
意識に引きずられ己の身も無意識に深呼吸を繰り返していたようだ。
短くなっていた煙草を新しいものに代える。
「よし。もう一度息を吸え」
レイフォンが息を溜めた所で手をいれて腰の当たりに触れる。
最初よりも体温は上がり触れる手が温かい。
「このあたりに意識はあるな。腹、或いはヘソのあたりが温かくなっている中心があるのは分かるな?」
レイフォンは無言で頷く。ならば問題はない。
温まっているのは血流によって新陳代謝が上がっているからだ。そしてそれが大事なのだ。
そこに意識が行き、そして動いているはずの”ソレ”を知覚するために。
「ならその後ろに……オレの指が触れているあたりにもう一つ、別の温かさがあるのは分かるか」
少し時間を置き、レイフォンが頷く。
ならば成功だ。
「それが剄脈だ。そこに意識を置くんだ。押さえつけて溜めた息をそこに押し出せ。最初の呼吸で腹を膨らませたように大きく膨らませるイメージを持て」
レイフォンの眉根が寄り、体に力が入って木から体が離れる。
離れた体を押して木に寄りかからせる。
「無理をしなくていい。ゆっくり吐きだせ。ほかの部分に力が入っては意味がない」
「ぶー。これむずかしい」
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