糸紡ぎ 蓮
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多少乱暴だがこれくらいは許されるだろう。
芝生の上を何回転かして子供は止まり上体を起こす。芝が口に入ったようで何度か吐き出そうとする。
「起きろ。お前に教えることがある」
「……むー。はーい」
一瞬眉根を寄せたが直ぐに立ち上がって子供は近寄ってくる。
顔は不満げだが。
「以外に素直だな」
「おかーさんにいわれたもん。「りんてんすさまのいうことききなさい」って」
我侭かと思っていたが母親の言うことは聞くらしい。
ならば先程まで逆らっていたことは一体どういうことなのかと思うが、まあ、それは子供にとってはどうでもいいことなのだろう。理で割れぬ線引きをしているのだろう。
だが、ちゃんといえば聞く、というのは有難い。
子供の、それも幼子の相手は経験したことがなく不得手というより他ない。
「で、もじゃひげなにやるの」
先ほどの言からして名前は知っているし認識しているはずだ、というのは今更なのだろう。
「まず、お前――」
「れいふぉん!!!」
「……レイフォンは武芸者についてどの程度知っている」
もはや諦めに近い苛立ちを覚えながら問う。
苛立ちの先は目の前の子供――レイフォンではなく、何故あんな馬鹿な事を決めたのかという昨日の己に対してである。
「すごいつよい!」
にししと笑いながらレイフォンは元気に言い放つ。どうやら漠然としか知らないようだ。
歳を考えれば妥当ではあるのだろう。ならばまずそこからだ。
「まあ、間違ってはいない。武芸者というのは『剄』と呼ばれる力を使う人間のことだ。本来『剄』は人間なら誰にでもあるものだが酷く微量で少ない。だが剄脈と呼ばれる器官はこれを多量に生み出す。それを持って超常の力を成すものが武芸者と呼ばれる存在だ……おい、蝶を追うな」
「もじゃひげはなしながい。それにむずかしくてつまんない」
どうやら理解できなかったらしい。
今更ながらに幼子を相手にしているのだと思い知る。単語レベルで話を合わせなければいけないのだ。
「武芸者は他の人には無い凄い力を使う凄く強い人たちだ」
「そのくらいしってるよ。「けい」でしょ」
このガキが。
出かけた言葉を歯を噛み締めなんとか押し殺す。
いつの間にか吸いきった煙草を新しいのを箱から出す。いつもより大分早い。
いつもなら鋼糸で火を付ける所だが懐を弄る。久しぶりで少し探したが古い傷だらけのライターを取り出し蓋を開ける。
久しぶりに触れるのを思い出させる硬い歯車と鼻に染み込む古いガスの匂い。
手で囲いを作り、揺らめく火を煙草の先に付け、落ち着けと言い聞かせるように静かに、大きく吸い紫煙を肺の中に充満させる。
ゆっくりと煙を吐き、何を言われても気にするなと
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