六十三 濃霧に沈む
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った己を悔い、イタチとの約束を守ろうと力を尽くしてくれていたのだ。
だから三代目火影が生きているとわかった時、サスケは逡巡した。
思い出すのは、あたたかく骨ばった火影の手。
それでも猶、里を嫌う素振りを見せる弟に、兄は穏やかな声で歌うように紡ぐ。
「俺はこの里が好きだ。幼き日に通ったアカデミーも、火影岩から見た美しい光景も、お前と共に修行した演習場も。…―――今となっては戻る事は叶わないけれど、それでも目を閉ざせば鮮明に見えてくる……俺の、故郷…」
最後のほうはほとんど聞き取れないほど小さき声だった。だがそれがより切実めいていて、サスケは誘われるようにじっと兄の話に耳を傾けた。弟の真剣な眼差しに、イタチが微笑する。
「サスケ、お前が生きているこの里が、俺は本当に好きなんだ」
兄の微笑みを真正面から受けて、サスケは一瞬息を呑んだ。優しくも決然たる顔をまじまじと見遣る。
ややあって言葉の意味がじわじわと浸透し、サスケは顔を伏せた。込み上げてくる嗚咽を秘かに呑み込む。
「それでも許せないのなら、お前が里を変えてゆけばいい」
サスケの顔が見えているのか、いないのか。俯いたままのサスケに、イタチは静かに声を掛けた。耐えるような嗚咽の微かな音は聞こえない振りをして。
「あの夢を今度こそ実現させよう」
やはり顔を上げない弟のおでこにそっと触れる。僅かに震える肩を覗き見て、イタチはふっと笑みを零した。
「俺が外、お前は内から」
兄の言葉の先を継いで、弟は口を開いた。言葉には出さなくとも、心の中で同時に宣言する。
((共にこの里(故郷)を守ろう))
おでこに触れるその指先は、昔と変わらず、あたたかかった。
程無くして、サスケは恥ずかしげにイタチから顔を逸らした。その瞳は写輪眼の影響だけではない赤を湛えている。
「……話はついたか?」
心を交わした風情の兄弟を見て取って、ナルトはおもむろに声を掛けた。
びくりと肩を跳ねさせたサスケの代わりにイタチが答える。
「ああ。…――世話を掛けたな」
「構わない」
イタチの礼に、ナルトは短い返答で応えた。次いで彼はイタチとサスケに視線を巡らす。
穏やかな顔が一転して、真剣な面差しとなった彼に倣い、兄弟もまた顔を引き締めた。
「三代目火影の生存は極秘だ。また昏睡状態である事から、木ノ葉の上層部は次の火影を決める意向にある。火影候補として挙げられたのは、自来也と…志村ダンゾウ」
ダンゾウの名にサスケが過剰に反応する。兄の話を聞く上で、弟である自分を引き合いに出したこの男を、サスケは最も憎んでいた。
「だが自来也は火影就任を辞退した。代わりに推挙されたのは、初代火影の孫にあたる三忍の一人――『綱手』。しかし
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