第十九話 〜活躍と暗躍 ホテル・アグスタ【暁 Ver】
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るわ。アスナ? 行くわよ」
アスナの顔を見る。半分ゴーグルで覆われているから表情なんかわからないけど。
「アスナ……何かした?」
「……べつになにも」
あたしはきっと腑に落ちないような顔をしていたはずだ。だけど、リイン曹長が助かったのは事実で、この娘が何も言わないのなら無理に聞き出すことでもないと判断した。
「アスナは右手側をお願い、あたしは反対側ね」
よく見なければわからないくらいの仕草でアスナは頷くと、あたしに指示された場所へと歩を進める。
「……ボブ、おにいちゃんは今日なにしてた?」
『桐生は朝から工房にいたよ、いつも通りだ。どうかしたかい?』
「……べつに」
遠ざかって行くアスナの背中を見ながら、あたしも持ち場へと就く。ボブと話していたようだが、内容までは聞き取れなかった。また、あの娘は何か考えているような気がする。キャンプ場の一件から八神部隊長は立ち直ったようだが、アスナは何か引きずっている。考えれば考えるほど、腹が立ってくる。今回はあたし達の勝ちだ。だけど八つ当たりが、これで終わると思ったら大間違いよ。
「ふむ」
「どうかなさいましたか、ドクター」
「いや、『ガリュー』が運んでくれたものなんだがね……ルーテシアを呼んでくれるかい」
「はい、少々お待ちを」
ウーノにドクターと呼ばれた白衣の男……スカリエッティは、やがてスクリーンに映し出された人形のように表情を変えない少女へ笑みを向けた。
『ごきげんよう、ドクター』
「ご機嫌よう、ルーテシア。度々呼び出してすまないね。ガリューが運んでくれた骨董品に関して幾つか聞きたいことがあってね、いいかな」
ルーテシアと呼ばれた少女はモニタの中で静かに頷く。
「木箱に入っていたと思うんだが……中には骨董品だけだったかな? ディスクのようなものは入っていなかったかい」
『箱の中には骨董品だけ』
「そうか……他に誰かいなかったかい?」
『いた』
「どんな人だったかな?」
スカリエッティには、ルーテシアがどう言ったものか、考え倦ねているようにも見えた。
『黒い男の人。暑いのに全身真っ黒で……黒のハーフコートまで着ていた。小さめの丸い眼鏡を掛けている。危ない橋を渡っているから早く持って帰ってくれって。……ドクターの協力者じゃないの?』
「なるほど……ありがとう、ルーテシア」
スクリーンから少女の姿が消える。それと同時に男の──── ジェイル・スカリエッティの狂ったような笑い声が木霊する。違う、まるで違う。バークリーの裏切り者で、小心者のあの研究者ではない。だとしたら、誰だ。スカリエッティは愉快だった。本|命
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