第十九話 〜活躍と暗躍 ホテル・アグスタ【暁 Ver】
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える。
「大丈夫ですよ。少なくとも六課に関しては。それに、ティアナさんとスバルさんがいますから」
「あぁ、そうでした。なら安心ですな」
呆れながらも微笑ましくダウランドを見ていた桐生が、不意に声のトーンを落とした。
「それと……彼の件ですが、ありがとうございました。また、あなたの手を煩わせてしまいました」
「お気になさらず……あの程度、造作もない事です。……あまり立ち話をしていては叱られてしまいますな。ご案内いたします」
桐生が通されたのは、簡素な応接室だった。だが、そこが唯の応接室ではないことを彼は知っている。盗聴や盗撮を防ぐ為に魔力を阻害する材質で覆われている特殊な作り。一度入ってしまうと、念話すらままならなくなる。バークリーには幾つか、このような部屋があった。
部屋にはすでに待ち人がいた。グレーに染まった髪は年相応で品があり、恐らくブランドものであろうダークブラウンのスーツがよく似合っていた。桐生はやや童顔な所為なのか、スーツなど着ても七五三のようにしか見えない為に、純粋にスーツが似合う男性を羨ましく感じていた。男性は幾分険しい表情をしていたが、桐生の姿を認めると、表情を崩した。
「久しぶりだな、ロック。元気そうだ。偶には帰ってこい。ここはおまえの家なんだから」
「はい、義兄さんもお変わりなく。義姉さんも元気ですか?」
「元気さ。アスナに会いたがっていたよ」
「今日はどんな用件ですか?」
「相変わらず、せっかちなヤツだな。紅茶を飲む余裕くらいはあるだろう? 何より……私もおまえも座ってすらいない」
桐生は、ばつが悪そうにソファへと腰を下ろした。テーブルを挟み、桐生の対面で品良くティーカップに口を付けている男性こそ、バークリーの現当主である『レイ・バークリー』である。
少々、強引な手段を用いることで有名な男であるが、その強引さはプライベートでも遺憾なく発揮された。その尤もたる例が桐生の呼び名である。ダウランドや彼が呼んだ『ロック』と言う愛称だ。桐生の名は発音し難いらしく、名前をもじった上に駄洒落のようなノリで強引に決められてしまった。桐生はその時、なぜ自分の周りには女性にしろ男性にしろ強引で気が強い人間しかいないのか、自分の人脈を呪った物だった。
桐生が普段あまり飲む機会のない紅茶に舌鼓を打っていると、唐突に。レイ・バークリーの口から、その事実が告げられた。
「おまえとアスナの遺伝子情報が持ち出された」
その瞬間。レイの前にあるカップが、音もなく真っ二つに割れた。レイは息を呑む。だが、それも一瞬だった。
「落ち着け、ロック」
「……どこに落ち着ける要素があるんです?」
背筋に冷たい物が伝う
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