第十九話 〜活躍と暗躍 ホテル・アグスタ【暁 Ver】
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────── ここへ来るのも久しぶりだ
その日、桐生は自分の身長よりも遙かに高い門扉を見上げながら、そんな事を考えていた。
アスナ共々、実家が嫌いというわけではないが、義父が逝き……そして、桐生とアスナへ泣きたくなるほどの優しさと、泣いてしまうほどの悲しみを刻み込んで、義母が逝った時。二人はこの家を出ることを決意した。今でも玄関の扉を開けると、義母が迎えてくれるような気がしていた。それが感傷である事は彼にもよくわかっていたが、アイリーン・バークリーという女性は、桐生やアスナにとってそれほどまでに大切な人になっていた。
草葉の陰で義父が俺はどうでも良いのかと、文句を言っているのを幻視した。我ながらくだらない事を考えたと桐生が苦笑しながら、仰々しいインターフォンへ手を伸ばした時。音もなく門扉が開いた。
「お待ちしておりました、『ロック』様」
門から『山』が出てきた。門構えに負けないほどの体躯。優に二メートルは超えているであろう。短く切りそろえられた黒髪は撫でつけられ、厳つい相貌に浮いている瞳は、鋭く桐生を見下ろしていた。だが。その瞳には、まるで久しぶりに帰省した息子を見るような優しさが湛えられていた。
『ハリー・ダウランド』。バークリー本家でも古参の一人で、実質的に使用人の長でもある人物だった。使用人や現当主の信頼も厚く、桐生がバークリーの名前を使う時には、パイプ役にもなっている人物である。
「お久しぶりです、お元気……そうですね」
桐生はそう言いながら右手を差し出すと、キャッチャーミットのような手が桐生の手を包み込んだ。
「ここ何年かは病気とは無縁です。アスナ様はお元気でしょうか……きちんと食べておられますかな、心配です」
からからと豪快に笑いながら桐生の手を握る、このダウランド氏。桐生やアスナを孫のように可愛がっており、特にアスナの可愛がり方は猫も裸足で逃げ出すほどだった。桐生曰く「目尻が三センチほど下がる」らしい。小さな頃からアスナの遊び相手であり、『強化』状態のアスナと互角に戦える稀有な人物でもあった。そして、己の武をアスナへ叩き込んだ張本人。地球出身であることは間違いないのだが、本人が多くを語らない為に詳しい来歴は不明である。
「義兄さんが秘匿回線まで使って……どのような用件なんでしょうか」
「それは、私の口から申し上げるわけにはまいりません」
ダウランドは桐生へと恭しく、頭を下げた。
「でしょうね……アスナは元気ですよ。今日も六課の方達とキャンプへ行っているはずです」
「それはようございました。……管理局の人間とは上手くいっているのでしょうか。いじめられてなどしておりませんかな」
桐生は少々、呆れ顔で答
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