第39話 「帝国のグランドデザイン」
[3/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
意味をもっと考えるべきだった」
「えっ?」
「権力を自分一人に、集中させていないんだ!! まったくよく考えているよ、あの皇太子。自分が死んだ後の事まで考えている。国家百年の計だ。本気でそんな事を考え、実践するとは、本物の専制君主の本領発揮だな」
ホワンがため息をついた。
聞いているこちらの方が、気が滅入ってくるような深いため息だった。
あの皇太子は言外に見せていた。銀河帝国皇太子という権威で、ここまで動けると。
支持率に一喜一憂し、選挙のたびにおろおろする政治家とは根本的に違う。
専制君主というあり方。それを体現しているのが皇太子だ。
貴族と平民と軍の支持も持っている。その上で帝国全土を見渡して、決断しなければならない。
今後銀河帝国の皇帝は、いまの皇太子と同じ態度で、動く事になるか……。
■松明式典 ウルリッヒ・ケスラー■
照明が落とされたイゼルローンの港。
式壇の上に宰相閣下が立っておられる。スポットライトを浴び、お姿が浮かび上がる。本式の儀礼服にマントを纏う。いっそ華やかとも思えるほどだ。口調の悪さで、ついつい忘れてしまいがちだが、黙って立っていれば顔立ちは整っているのだから、人目を引く。
各艦隊に沿って迎えに来た兵士達が松明を持って整列している。
指揮者台の上のメックリンガーが、指揮棒を振った。
“ワルキューレは汝の勇気を愛す”が流れ出す。
「点火」
宰相閣下が落ち着いた口調で指示された。
その途端に、松明に火が灯される。まるで火の回廊が作り出されたような印象を持った。
ゆらめく炎の回廊。
影もゆらめく。
帰還兵が乗り込む艦艇にまで続く道。道は炎によって導かれている。
「さあ諸君。故郷へ帰ろう」
宰相閣下の言葉とともに、帰還兵達が歩き出す。
総旗艦のタラップの最上段に、宇宙艦隊司令長官のミュッケンベルガー元帥が松明を持って、立っていた。
「よく帰ってきてくれた」
最初の帰還兵が通り過ぎる際、元帥が低い声で呟くように言った。
はっとした顔で振り向いた兵は元帥を見たが、元帥は厳めしい表情を浮かべているだけで、自分の聞いた声が本当だったのか、幻聴だったのか判断できずにいるようだ。
ただ自分に続いて艦に入った者達も、驚いたような表情を浮かべていたために、その言葉が他の者にも聞こえた事を知ったらしい。
厳めしい表情を崩さない元帥。
たった一言。
短い言葉ではあったが、そこに全てが込められていた。
帝国軍宇宙艦隊は、帰還兵を受け入れる。
今までのように排斥する事は無い。差別も無い。
司令長官がそれを宣言したに等しい。
「何をしている。胸を張りたまえ。諸君が恥じ入る必要など、どこにもあるまい」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ