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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百話 異質
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で独自のネットワークを持っていた? それも考えられない……。

同盟における交友関係も殆ど記述が無い。記載されているのは軍務に関する物だけだ。ヤン・ウェンリー中将、マルコム・ワイドボーン中将、ローゼンリッター、バグダッシュ、ミハマ中佐……。プライベートでの付き合いは記載されていない。調査課で調べても何も浮かんでこない。どう見ても他者との接触を拒んでいるようにしか見えない……。

情報量の多さは情報源がどれだけ多いかによる。そして情報の質の高さは情報源がどれだけ信用できるかで決まる。情報源と情報、それをさまざまに比較し分析する事で正しい解を導き出す。それが情報を扱うという事だ。だがヴァレンシュタイン中将の場合はそれが見えない、そして常に正しい解を持っている、何故だ? 余りにも異質であり過ぎる……。

ここ最近、政府内部ではトリューニヒト国防委員長の力が強まっているらしい。国防委員長は対地球教対策のため帝国との交渉を一手に引き受けた。周りは厄介事を押付けたつもりかもしれないが現実には帝国との交渉権を握る事で国防委員長の力が増していると聞いている。

トリューニヒト国防委員長はシトレ元帥と親しく元帥とヴァレンシュタイン中将が密接に繋がっているのは間違いない。つまり一連の動きは中将がシナリオを書いたという事だろう。狙いは何だ? 帝国と同盟に地球教という共通の敵が出来たが和平を考えているのか? 主戦派の国防委員長が和平?

分からない事が多すぎる、だがヴァレンシュタイン中将の力は最高評議会にまで及んでいるのは間違いない。彼は何を考えている? 同盟を何処へ導こうとしている? そこを見極めないと先が見えてこない。バグダッシュには見えているのだろうか……。いや、それ以前に亡命者にそこまで力を持たせて良いのか? 民主共和政、同盟市民が主権者である自由惑星同盟を亡命者が動かしている? 正しい姿と言えるのか?

異質、と思った。あらゆる事において彼、エーリッヒ・ヴァレンシュタインは異質で有り過ぎる。同盟だから異質に感じるのか? いや、そうでは有るまい、帝国でもあれでは異質に思われたはずだ。冷徹、慎重、周到、明晰、評価欄には幾つかの言葉が有った。いずれも賛辞と言って良いだろう。だがそれに続けて奇妙な文字が有る。不可解、恐怖、孤独、臆病……。

“エーリッヒ・ヴァレンシュタインから受ける印象は不可解と恐怖、そして孤独である。彼が有能さを顕せば顕すほど彼から受ける印象は讃嘆では無く不可解さと恐怖になる。特に彼の身近な人間ほどその印象は強まるだろう、そして彼との間に距離を置き始める。彼は他者との密接な関係を持たないのではない、持てずにいると考えるべきである。亡命直後、彼が後方支援で周囲と友好的な関係を結べたのは彼が自分の能力を隠したからに他ならない”


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