プロローグ(2)
[3/3]
[8]前話 [9]前 最初
うで」
結は目を丸くし、数秒の間立ち尽くしていたが、すぐに納得した。凛はきっと、女子高生にしてガンなどというつらい病気にかかって、少し弱気になっているのだ。結としては、朝まで一緒にいてやりたいところだ。しかし、面会が許されているのは9時まで。手術直後の凛の為にも、結はそれまでに病室を出なければならない。
「また明日も来るよ」
結は妹の頭を優しく撫でると、病室を後にした。
「結……ッ!」
すがるような、妹の声が聞こえた。
結は、雪の積もったアスファルトを歩き続けた。辺りは銀世界とまではいかないが真っ白。寒さの為か、人通りはほとんどない。あまりに綺麗な景色に、思わず見とれた。
しかし、突然 視界に黒いものがうつった。
蝶だ。黒い蝶。だが、ありえない。今は冬、蝶が飛んでいるはずがない。
━━窓の外に、黒い蝶の群れを見たの。
━━あたしが……結が、消えちゃいそうで。
何だか不気味に感じ、結はその場を避けた。しかし、蝶は群がりながら結についてきて、どんどん距離を詰めてくる。
「━━ッ!?」
どれだけ走っても追ってくる。やがて蝶が、結の体にまとわりつき始めた。振り払う為、結は腕を動かそうとする──しかし。
「━━えっ」
何故だか、蝶がまとわりついた体の部位は、まるで言うことを聞かない。どれだけ力を込めようと、ピクリとも動かない。終いには体が勝手に動き出して、近くの10階建て高層ビルの中に入っていく。
「だッ、誰か──」
叫ぶが、自分の声が跳ね返って響くばかりで、返事はない。遂にたどり着いたのは──10階。結は冷たいものが背中を滑り落ちるような感覚に苛まれた。勝手に動く手は、屋上の扉を開け、結の意思と関係なくその端へと進む。
下界が見える。ここから落ちれば、確実に──。
「ちょっ……止まって!お、落ちる……」
どれだけ言っても、足は歩みを止めようとしない。落ちるまであと3歩、2歩──。
「嫌だ……っ」
結の顔は瞬時に青ざめた。下から野次馬たちが見ている。
──なんで? さっきまでは、誰もいなかったのに。
今はそんなことを考えている場合ではない。もしかしたら、誰かが受け止めてくれるかもしれない──。思ったその瞬間。
1歩──……0。
結は、10層にも重なるビルを落下していった。蝶が三々五々に飛んでいく。やっと自由になった手を上に伸ばすが、虚しく空を切る。
その時、誰かの声が聞こえた。
「──ユイ」
[8]前話 [9]前 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ