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空を駆ける姫御子
第十八話 〜ひとときの休息 後編【暁 Ver】
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────── おまえは、あたし達の敵だ




 じ、じ、じ、じ。桐生アスナは唯ひたすらに。空を駆けていた。足下の魔力素を固定。そして解除を繰り返す。解除する度に淡い蛍のような光と共に音が鳴る。虫の鳴き声のような。鳥のさえずりのような。じ、じ、じ、じ。桐生アスナは唯ひたすらに──── 空を駆けていた。




 桐生アスナがエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエと共に森林から意気揚々と凱旋した時には、既に空気が一変していた。一緒に来た仲間の姿が見当たらないことに首を傾げつつ、慣れ親しんだ魔力の気配を辿り、キャンプ場の制御室だと思われる古びた小屋に入ったアスナを出迎えたのは。複雑な表情と戸惑いの瞳だった。

「……なにかあった?」





 八神はやてから事情説明を受けたアスナは何とも言えない気分になっていた。実質的にキャンプ場にいる人間が人質に取られた状態とは言え、テロリストの要求を唯々諾々と呑んでしまったのだ。勝ったところで何のメリットもないゲームをやる羽目になっている。馬鹿な話だと思いながらアスナは、窓から見える親子連れの姿に視線を向ける。遊んでいる子供達。すぐ傍に酷くわかりやすい『死』があるというのに。アスナにとっては何の価値も無い人達だ。だがアスナはいつの頃からか()()を簡単に切り捨てられなくなっていた。

 それが果たして強さなのか、弱さなのか。アスナにはわからない。アスナにとってはそれすら、あり得ないことだった。自分を暗闇から救い出し、新しい世界と新しい家族をくれた兄。その兄がもう馬鹿げた()など使うことがないように。傷つかないように。自分が強くなれば良いとアスナは考えた。

 恐らく他者から見れば、何とも滑稽な話なのか知れない。兄である桐生自身もアスナと同じように考えているからだ。アスナが傷つかないように。出来れば、()など使わないように。誰よりも近くにいるはずなのに誰よりも擦れ違っている兄と妹。視線を戻し、皆の顔を見る。何の道このままでは、千日手なのだ。やるしかない。

「……私が、はしる」





──── 風切りの音。風と音が通り過ぎていく。

『アスナ、ペースが速い。それほど速く走らなくてもいい』

 そんな事は百も承知だった。

「……スローペースは却って疲れる」

『ゴールが見えないんだぞ? ……『気』の強化のみでどれくらい走れる?』

「……しらない。試したことはないから」

 自分の右手首に嵌められているバングルを視界に入れると、アスナは露骨に舌打ちをした。魔力を検知すると起爆。一定以下のスピードになっても爆発。ジェイル・スカリエッティという男はかなり性格が悪いらしい。御陰で『魔力』による強化が封じられてし
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