『銀河英雄伝説』――骨董品(ガラクタ)――
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がある。人類発祥の地である地球、古代中国の模様と思われるデザインの一品が、一際目立つような店先の場所に飾られている。
「あれは恐らく唐の時代景徳鎮という街で作られた唐三彩だな」
「他のと比べて、すごい値段だね。でもさ、あんな壷に価値があるの?」
値札に記されたゼロを数えたヤン少年が、真っ直ぐな瞳で父親の顔を見上げていた。
「うーん。人によっては命に代えても欲しいかもしれないし、また別の人からすれば、単なる骨董品がらくただろうな」
「でも商売なんだから、売れない壷なんて店に並べても仕方がないでしょ?」
「ヤン、よくお聞き。世の中には一見すると全然役に立たないような物でも、使い方次第で価値が出る物があるんだ」
「ふーん」
「お前が言うとおり、この店ではあの龍耳壷より高い商品は無い。だが、逆に言えばあの壷の値段が高く設定されているのには理由があるのさ」
「どんな?」
「いいかい? この店に来たお客は、最初にあの壷を見せられる。ほら、わざと一番目立つ場所に置いてあるだろ?」
「うん」
「するとだな、いざ自分が気に入った骨董品を買おうとしたとき、無意識のうちにアレと比較してしまうんだ」
「ふーん」
「すると本当は欲しい品物が他店と比べて割高だったとしても、あの看板商品を目の前にすると相対的に安いと勘違いしてしまうのさ」
「お父さんが、いつも言っている心理的陥穽ってこと?」
言葉の意味を本当に理解しているのか、ヤンが首を捻る。
「ああ。例えばこっちに置いてある皿なんて、俺が思うにもっと安くてもいいはずだ」
ヤンの父親が隣に陳列されている白磁の大皿を物欲しげな様子で見る。
だが、店の奥で椅子に腰を降ろしたでっぷりと太った店主は、大事な商品を値踏みしている親子の会話を気に止める様子もなかった。
「でも……。やっぱり売れなきゃ商売にならないんじゃないかな?」
「もしお前が魔法使いだったら、あんな骨董品がらくたの壷の一つや二つ、すぐ相手に売りつけるだろうな。はははは」
父の言葉を右から左へ聞き流しながら、どうしても気になるのか幼いヤン少年が高価な龍耳壷を見つめ続けた。
――★――
「閣下! 閣下。起きて下さい」
副官のフレデリカが、司令官席で大きく足を伸ばしてくつろいでいるヤン提督を優しく揺り起こす。
「うーん。どうした? 久しぶりに子供の頃の夢を見ていたところなんだが」
魔術師の異名を取る第十三艦隊の司令官が、あくび混じりで答えた。
その言葉を耳にした先の下士官が、二人して顔を見合わせる。
「せ、先輩? やっぱり提督は、居眠り……」
「しっ! 黙っていろ」
慌てた年長の下士官が、空気の読めない後輩の口を塞ぐ。
「閣下、そろそろ敵艦隊の予
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