『銀河英雄伝説』――骨董品(ガラクタ)――
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『銀河英雄伝説』――骨董品ガラクタ―― 著 独身奇族
いつの世も戦争が続いている。いつの世も戦争によって残されるものは、無尽の荒野だけだ。
そして刻まれた傷は、時の流れと共に消えていく。その傷を目撃し記憶しているのは、満天に輝く星の群れかもしれない。
その星すら、いつの日か流れ星のように消え去る運命にある。
これは、そんな星々の間でいつの日か語られたある人間たちの、今はもう忘れかけている戦いの記録である。
宇宙暦七百九十七年、帝国暦四百八十九年。八月二十五日。
ラインハルト・フォン・ローエングラム擁する銀河帝国とヤン・ウェンリーを実質上、軍の最高指揮官に任じる自由惑星同盟は、帝国領と同盟領の間にある航行不能の宙域の中、僅かに通り抜けられるトンネル状の宙域のひとつであるイゼルローン回廊を挟んで、今日も戦いを繰り広げていた。
自由惑星同盟の最精鋭部隊である第十三艦隊の旗艦ヒューベリオン。
第一艦橋に配属されて間もない若手仕官が、隣に座る通信指令仕官の脇腹をこっそりと指で突く。
「ちょっと先輩?」
細面の駆け出し下士官が言いにくそうに口を開く。
「どうした?」
「あの……」
「ははーん、さては。ヤン艦隊の頭脳ともいえるこの第一艦橋に異動してきて三日目。お前、緊張のあまり腹でも痛くなったんだろ?」
「ち、違いますよ! 提督ですよ、ほら提督」
「我らが奇跡のヤン提督がどうかしたのか?」
二人が首をめぐらして司令官席を見上げると、コンソールの上にだらしなく両脚を投げ出し、顔の上には自由惑星同盟のグリーンベレー帽を被せて両腕を組む姿があった。
「ひょっとして、お休みになっているのでしょうか?」
まだ顔にあどけなさの残る下士官が、不安そうな面持ちで隣の先輩仕官に尋ねる。
「馬鹿言うな。提督は、ああやって灰色の脳細胞をフル回転させているんだ」
「そ、そうですよね。今は一刻も早く敵艦隊を発見して、これを追い払わないといけませんから」
部下達が勝手に勘違いをする中、ヤンの何色か定かではない脳細胞は、銀河帝国艦隊との連戦の疲れもあり、幼い頃の夢を見ていた。
――★――
骨董品を扱う小さな店先。父親のヤン・タイロンに連れられた幼少のヤンが不思議そうな顔で質問を投げかける。
「ねえ、父さん。この店に置いてある一番値段が高いあの壷だけど……」
青みがかった釉薬をベースに白磁、緑磁をふんだんにあしらった極めて華美な陶磁器を小さな指が指し示す。
壷の両脇に付けられた取手は、大きく口の開いた二匹の竜をあしらった作りであった。龍耳壷と呼ばれる骨董品は、幼いヤンの背丈の半分ほど大きさ
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