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空を駆ける姫御子
第十七話 〜ひとときの休息 前編【暁 Ver】
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ているのを咎めに来たわけじゃないよ」

 レイと呼ばれた中年男性──── バークリーのCEO(最高経営責任者)であるレイ・バークリーはロマンスグレーに染まった髪を品良く揺らしながら微笑した。桐生にとっては義理の兄でもある。

「桐生様……とても恐い顔をなさっていました。何があったんでしょう」

「なに……心配はいらないさ。彼は『ヒーロー』だからね。アスナ限定ではあるが」

 全ての状況、戦況をひっくり返せる『力』を有しているにも拘わらず、多くの人を助け世界を救うようなヒーローではなく。たった一人の少女の為だけのヒーローになる事を選んだ『大馬鹿者』。レイ・バークリーのように長くビジネスの世界で生きてきた人間には、そのような人間が何の野心も持たずに生きていること自体理解し難い事であった。()()()もそうだった。亡くなった父の後を追うようにして、母が亡くなった時だ。


「今、何と言った?」

「いや、ですからね。遺産相続の全てを放棄します。私も、アスナも」

「おまえもバークリーの人間なんだぞ。私の弟だ」

「勿論です。ですが……自分の身の丈に合わない物を戴いても手に余るだけです。その代わり二つほどお願いがあります」

「願い?」

「はい。まず一つ目。バークリーの情報網を使わせてください。そして二つ目。あの『草原』の一部の土地をアスナの名義に。私達の願いはこれだけです」


 レイは苦笑する。あの草原へ家を建てたと思ったら、アスナと一緒にあっさりと本家を出て行ってしまった。尤も、レイは桐生に経営の才能はないと考えていた。それを考えれば、彼の判断は英断だったのかも知れない。才能が無いにも拘わらず、権力と金に執着する者も多いというのに。その結果、会社を潰してしまうなどよく聞く話だ。

 父と母が突然、あの二人を養子にすると言った時は驚いたものだった。だが彼は嬉しかったのだ。幼い頃から経営者として厳しく育ってきた彼に、弟と妹が出来た。兄弟がいたらこんな感じなのだろうかと夢想していたものが現実となった。だが彼は、寂しくもあった。桐生に経営者としての才能が無いとわかった時。アスナの目指しているものを知った時。あの二人が──── 家を出て行った時。

「レイ様。如何なさいましたか」

 気遣わしげな声に下を見ると、アナが見上げるようにして彼を見ていた。どうやら使用人に心配されるような表情をしていたらしい。彼は何でもないと言うように首を振ると、桐生が消えていった中庭を見つめる。いつかまた。彼らと一緒に暮らせるよう願いながら。





 誠に遺憾ではだけれど。スバルが大量の釣果を上げ、あたしは坊主という結果に打ち拉がれていた頃。一人の男性が八神部隊長へと声を掛けた。あたし達は兎も角
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