第十七話 〜ひとときの休息 前編【暁 Ver】
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とは裏腹に晴れない。ここに来るのは久しぶりだが、いつもながら広大な中庭に、呆れながら感心するという器用な表情を浮かべながら眺めていた。この中庭だけで自分の家が何軒建つだろうなどと、いたく庶民的な事を考えていると、一人のメイド服を着た少女が近づいて来る。小動物のような歩き方が幼い頃のアスナを見ているようだった。
「やあ、アナさん。お久しぶりですね」
「はい、お久しぶりです」
少女はそう言うと、深々と頭を垂れる。アナ・アスキス。アスナと運命的な出会いをし、その後ティアナ達に保護された少女である。現在は桐生の口添えによりバークリー本家にて使用人として働いていた。世間の中傷などから彼女の身を守る為には、それが出来るだけの環境が必要であったのだ。
「何か私に用ですか?」
「いえ。桐生様がおいでになっていると聞きましたのでご挨拶を。その節は本当にありがとうございました」
「私は何もしていませんよ。お礼ならアスナに。それと『様』は止めてください」
「それですっ」
「……どれでしょう」
「アスナさんに『アスナ様』と言うと、口をへの字になさるんです」
桐生はそれを聞いて乾いた笑い声を上げる。
「堅苦しいのは苦手ですから。私もアスナもバークリーの経営とは無関係ですしね。私は兎も角として、アスナには出来れば、友人として接してあげてくれませんか? アスナもそれを望んでいるはずです」
「はあ……頑張ってみます」
友人云々は取り敢えず置いておくとしても、アナは桐生の物言いに少々違和感を憶えた。現在の当主とは兄弟だと聞いている。だが、彼もアスナもバークリーとは距離を置いているようだった。況してやバークリーの関連企業の役員と言うわけでもないらしい。聞いてみようかとも思ったが、思い直す。一使用人が踏み込んでいい話ではないからだ。
アスナの近況でも聞こうと、アナが口を開きかけた時。桐生が着ている上着のポケットから不安を煽るようなコール音が聞こえた。何事かと桐生の顔を見た彼女は息を呑む。その表情は、彼女が今まで見たことがないほどの険しい表情だった。
アナは知る由も無いがそのコール音は、桐生とボブの間で決められた──── アスナの身に何か起こった時だけに鳴る、今まで唯の一度も鳴ったことがない、エマージェンシーコール。桐生は舌打ちすると、躊躇することなく『跳んだ』。
「へ?」
アナは突然目の前から消えた桐生を探すように首を巡らすが、見つかるはずもなく。目を白黒させる他なかった。
「転送魔法?」
「魔法ではないよ」
「あ! レイ様、申し訳ありませんっ」
慌てて頭を下げるアナを見た男性は、気にするなとでも言うように手を上げる。
「別に君がサボっ
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