第十六話 〜彼女たちのお話 -ティーダ・ランスターの章-【暁 Ver】
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── こう言うのだ。いつものように。
「……た、だい……ま」
何かを掴むように──── 挙げられた手は。何も掴む事無く。びちゃりと血溜まりの中へ落ちた。
「……どういうことでしょうか」
ヨハン・ゲヌイトは怒気が溢れそうになるのを抑えながら己の上司──── ベルンハルト・メッツェルダーへと問いただす。
「どういうことも何も、説明した通りだ。情報を掴んだティーダのヤツが、俺の命令を無視して一人で突っ込みやがった。……ティーダは死亡。試薬も行方不明。挙げ句の果てに『海』の連中に手柄を持ってかれちまった。俺の責任問題も免れん。悪くて更迭。良くて左遷ってとこか」
「馬鹿な……あり得ません」
「……起こっちまったんだから仕方ねぇだろ。納得しろ。おい、何処へ行く?」
「私の方で調べます」
「なぁ、ヨハンよ。認めろ。現実から目を背けるな。……大人になれ」
メッツェルダーの物言いに、ヨハンは奥歯を噛みしめた。大人になれだと? 冗談ではない。ティーダ・ランスターとコンビを組むようになって三年あまり。ティーダが妹の為に執務官を目指し、それなりのキャリアを求めていたことも知っている。だが彼にはどうしても、ティーダがそのような無茶をしたとは思えなかった。
ヨハンは背中に突き刺さる上司の視線を振り切るようにして、部屋を後にした。必ず真相を突き止める決意を胸にしながら。
「……どういうことだ」
若い男──── いや、少年と言っても良いだろう。自分の上司である男へ怒気を隠す事無く問いただす。
「……上からの命令だ。ベルンハルト・メッツェルダーは挙げるな。そしていつものように処理しろ、との事だ」
上司は本当にそれがいつもの事であるかのように淡々と少年へと返した。
「同僚が死んでるんだぞ。一般人までっ……待て。いつものようにとは何だ」
「ティーダ・ランスターは上司の命令を無視し、犯人と交戦、死亡。ウチの人間と一般人が死んだ件は、全くの別件として処理する。事故死が妥当か」
「真実を捩じ曲げるのかっ。何故ベルンハルトを挙げない!」
「それが仕事だからな。挙げてどうする。現役の管理局員が違法魔導師と繋がっていて、しかも男女の関係。同じ管理局員を二人殺った挙げ句に一般人まで。……大スキャンダルだ。管理局にとってイメージダウンは免れん。内々で処理しようにも、自分の身に何かあったら事を公に出来る準備をしている可能性も否定出来ん。どっちに転んでも管理局にメリットはない。ならいっそのこと……生かさず殺さずって事だろう。捕まった女も……長くはないな」
少年は俯き拳を握りしめる。
「管理局の不正を暴く俺たちが、不正や不祥事を隠すのか」
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