第十六話 〜彼女たちのお話 -ティーダ・ランスターの章-【暁 Ver】
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ースを拾い上げ愛おしげに撫でた。
「悪いな、ティーダ。コイツの事を知った時は、本当に運が向いてきたと思ったんだぜ? コイツは金になる。ちょっと改良してドラッグとして捌けば、飛ぶように売れるぜ。それに俺の趣味にもぴったりだ」
女が男の肩へと撓垂れ掛かる。
「ねぇ、ここに来る途中でストーカーみたいに付いてきたヤツが、ウザくて殺っちゃったのよね。通りかかった一般人を必死で庇っちゃって笑ったわ」
「おい、まさか……一般人まで殺っちまったのか? 内部調査室のヤツだな。そいつはちと不味い……いや、多分大丈夫だな。あそこはそういうところだ。よしゃ良いのに、うろちょろしやがって馬鹿が。それとおまえにも一働きして貰うぜ」
男はそう言って女の腰へ手を回すと唇を奪う。ぴちゃぴちゃと妖艶な音が、無機質な倉庫へと響いていく。唾液のアーチを掛けながら男の唇が離れた。情欲に染まった瞳を男へ向けながら女が問いかける。
「それで? 私はな、に……んっ……をすればいいの?」
男は無骨な手で女の乳房を揉みしだきながら答える。
「何、悪いようにはしねぇ。少しばかりリスキーだが、人生は博奕だ。だからこそ楽しいのさ。うまくいかなきゃそれまでの事だ。……おまえはこのまま捕まれ。何、心配するな。俺が手を回してすぐに出してやる」
男は──── ベルンハルト・メッツェルダーはそう言いながら、顔をぐにゃりと歪めた。女は知らない。もう自分は一生、日の当たる場所へは戻ってこられないことを。女は知らない。もう自分は、男に必要とされていないことを。そうして、男と女は──── ティーダに路傍の石を見るかのような視線を向けた後、立ち去っていった。
多分僕は死ぬんだろうな。我ながら人が良すぎると思うけれど。不思議と腹は立たなかった。人はこういう時にどうするんだろう。何かを願うんだろうか? 何を? 奇跡? ……違う。この世界に奇跡などありはしない。パンドラの箱に残っていたのは『希望』などではないんだから。では何を? ああ──── 僕はなんて馬鹿なんだろう。僕が願う事なんて決まってるじゃないか。
──── ティアナが幸せになりますように
これで大丈夫だ。……ん? これで? 僕は──── 何をしていたんだっけ。そうだ、帰らないと。ティアナが待ってる。ティアナのオムライスは絶品だ。ちゃんとマッシュルームも入れてくれるだろうか。偶にはケーキの一つでも買って帰るのも良いかも知れない。うん、良いアイディアだ。そうしよう。そうして僕は。いつものように家路を急ぎ、いつものように扉を開けると、彼女が笑顔で迎えてくれる。だから僕は──
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