第十六話 〜彼女たちのお話 -ティーダ・ランスターの章-【暁 Ver】
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顔だった。
「終わったか?」
ティアナと一日一度の定期連絡を終えた僕の耳に、色気のあるバリトンが届く。僕は彼のこの声が少しだけ羨ましかった。僕は振り返る事なく彼の声に応える。
「明日から休暇だろ? さっさと帰って休まなきゃ」
「しかしだな……」
「進展があったと言っても、昨日より潜伏地区の絞り込みが出来たって程度なんだから。今すぐどうこうって話じゃないよ?」
彼は少々真面目すぎるのが困る。だから、僕とも気が合ったんだろうけど。僕はそう言って紙コップに入った紅茶を一気に飲み干す。紅茶なら大丈夫かと思ったけど、これは雑巾から絞った水の味がした。いや、これも実際に飲んだ経験は無いけどね。僕が椅子から立ち上がり、オフィスへ戻ろうとすると彼に呼び止められる。何事かと思ったけど、呼び止めた本人が何も言わない。どうしたんだろう。
「……私はなぜ貴様を呼び止めた?」
うん、これは重傷だね。僕は出来るだけ彼を刺激しないように優しい笑顔を浮かべながら彼の肩へ手を置いた。
「早く帰って休んだ方が良い。君は疲れているんだ」
我ながら完璧だ。
「……可哀想な人間を見るような目で私を見るな」
しまった。怒らせてしまったようだ。何がいけなかったのか。僕は彼の表情がおかしくて、からからと笑った。
「じゃあね、ヨハン。良い休日を」
彼はなぜか──── 何も答えなかった。
─ 新暦六十九年 七月七日
<ティーダっ、今どこにいる!>
定期巡回中の僕の頭に飛び込んできたのは、慌てたような上司の念話だった。
<D-23です>
<丁度良い。例のやつが現れたと情報が入った。D-18にある使われてねぇ廃倉庫だ。場所わかるな?>
<勿論。海辺に面したところですよね? 二年前に倒産した物産会社所有の>
<上出来だ。その中の第八番倉庫だ。でかく数字が書かれてるからすぐわかる。例の試薬の受け渡しの可能性もある。うまくいきゃ依頼したヤツも挙げられるぞ>
<単独犯ではないと?>
<その可能性もあるってこった。おめぇは先行してくれ。応援は俺がすぐ手配する。試薬は、呉々も傷つけるなよ。それと──── 無理すんじゃねぇぞ>
<了解しました>
<よっしゃっ、運が向いて来やがった! 以上だ>
いかにもこの人らしい物言いに苦笑する。ギャンブルじゃないんだから。いや、この人にとってはギャンブルか。『人生は博奕』が口癖だからなぁ。嫌う人間も多いけれど、僕は割とこの人が好きだった。……女性にだらしないのはどうかと思うけれど。ヨハンと言い、この人と言い……僕は自分と正反対の性格に憧れるのかも知れない。そんな事を考えながら僕
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