第十六話 〜彼女たちのお話 -ティーダ・ランスターの章-【暁 Ver】
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ぶつけてみる事にした。質問という名の詰問を。
「……兄さん。先ほどから後ろ手に隠している物は何?」
「ライター」
少しは動揺するか誤魔化すかすると思っていたが、真面目な顔をして答える兄を見て自然と形の良い眉がつり上がっていく。そんなティアナを見てティーダはやっと、己の失態を悟ったのか酷く狼狽し始めた。
「い、いや、唯のライターじゃないんだ。今から六十年以上前に作られた逸品でね? 状態もとても良いし、それほど高くなかったし」
兄の唯一の趣味であるアンティーク収集。それほど散財するわけではないので、家計には優しい趣味ではあったが、ティアナには何一つ理解出来なかった。煙草も吸わない癖にライターを持つ意味は何なのだ。
「兄さん? 使わない道具ほど意味の無いものはないのよ? いくらしたのかは知らないけど、またそんなガラクタを買ってきて」
「あぁ、あっ、ティアナは今とっても、言ってはいけない事を言いましたっ」
ここからはいつもの言い争いだ。周りにいたカップルや親子連れが、微笑ましげに彼らを見つめている。ティアナにとってはこれもコミュニケーションの一つであり、兄の温もりを感じられるこの時が堪らなく好きだった。それは恐らくティーダも同じ思いであろう。ティアナはこの幸せな時間がずっと続くのだと思っていた──── そう思っていた。
── 新暦六十九年 七月六日
「そっか。それじゃ、今日は帰れそうもないのね?」
日が沈んで暫くたった頃、兄さんと約束している一日一度の定期通信。モニタの中にいる兄さんは、申し訳なさげに眉を寄せている。兄さんはいつもこうだ。いつもの事なんだから気にしなくて良いのに。
「うん、今追っている事件が進展を見せてね。今日はちょっと無理そうなんだ。明日は大丈夫だと思うんだけど……」
兄さんの口調から、もしかしたら明日もダメかなと考える。それでも一応聞いておかないと。
「明日は何が食べたい?」
「オムライス」
子供のあたしが言うのも何だけど、また子供みたいなものを。あたしの視線に気付いたのか、兄さんは悪戯がばれた子供のように説明し始める。
「い、いや、オムライスとかカレーライスとかハンバーグとか。無性に食べたくなる時がないかい?」
言っている事はわからないでもないけど。
「あ、それとオムライスのチキンライスは、ケチャップのやつで。必ずマッシュルームを入れること。マッシュルームが入ってないチキンライスは認めません」
「はいはい、わかりました。それではお帰りをお待ちしております」
「はい、楽しみにお待ちください」
他愛のないいつものやり取り。モニタの中で見た兄さんは、あたしがこの世界で一番安心出来る優しい笑
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