第十六話 〜彼女たちのお話 -ティーダ・ランスターの章-【暁 Ver】
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もって毒を制すか。考えられなくはないな。何の道、管理局など一枚岩ではないのだ。裏で何をやっているのか、わかったものではない」
僕だってそれはわかっているんだけどね。だけど……
「それを当たり前だと思っちゃダメだよね」
「それこそ当たり前だ、ティーダ。人はそれを当たり前だと受け入れた時に老人となるのだ。生憎、貴様も私もそれにはまだ早い。世の中を知らない半端物が、小賢しい知恵を身につけ『人間や組織など所詮はそんなもので、綺麗なものではない』などと、ご高説をたれても滑稽なだけだ。抗う事を忘れた人間など見るに堪えんな。……犬畜生の方がまだ高尚だ」
「そんな老人みたいな人間にはなりたくない、ね」
僕は飲み終えた紙コップをダストシュートへと放り込む。……動物は人間のような知恵がないから、抗い続けて生きなきゃならない。どちらが高尚かは、僕には判断出来ないけど。僕の言葉を合図として彼も動き出す。そうだ。
「ヨハン。偶には僕の家で食事でもどうだい? 妹にも紹介したいし」
「……厚意はありがたいが、遠慮しておく。泣かれでもしたら事だ」
彼は決して子供が嫌いではないらしい。だけど少し痩せすぎで背も高いし、何より、うち捨てられた髑髏みたいな人相が子供には酷かも知れない。彼はゆるりと廊下の闇へと消えていこうとする。だけど、甘いね。
「抗わなきゃ。ヨハン?」
「……吐かせ」
幽鬼のような目で睨まれた。
─── 新暦六十九年 七月四日
一日の始まり。一日の始まりの音は何だろうか? 母親が台所で朝食を作っている音? 家族が忙しなく廊下を行き来する足音? 人によっては、腹の虫の鳴く音と答えるかも知れない。だが、大抵の人はこう答えるのではないだろうか? 至福の時を邪魔する無粋で、無骨な音。そう、目覚まし時計だ。朝の静寂な空気を震わせるその音は、この部屋の主を起こすべく、先ほどからがなり立てている。多くの人はそれで目覚めへと、導かれるものなのだが──── 何事にも例外はあるようだ。
遠くからテンポの短い規則正しい足音が近づいてくる。その足音の主は未だ騒音を撒き散らしている部屋の前まで来てぴたりと止まると、なぜかポケットからコンパクトを取り出し、髪型や身なりをチェックする。やがて満足げに頷くと躊躇いがちにドアをノックし、部屋へと足を踏み入れる。その手にはフライパン。これが、フライパンとお玉であるならば、ベタな展開ではあるのだが何事にも例外はあるものだ。
「酷いなぁ、ティアナは」
男──── ティーダはダイニングテーブルの椅子に座りながら、向かい側に座っている少女へと恨めしげな視線を注ぐ。未だにじんじんと痛みを訴えてくる後頭部へ恐る恐る手をやると、見事なこぶが
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