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空を駆ける姫御子
第十六話 〜彼女たちのお話 -ティーダ・ランスターの章-【暁 Ver】
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「気味の悪い事を言うな」

 ヨハンの表情がいつもの顰めっ面へ戻ったのを見るとティーダは快活に笑った。ティーダは一頻(ひとしき)り笑うと、至極もっともな疑問をヨハンへと問うた。

「ところで僕に何か用かい?」

「だから先ほど言っただろう。……今日は妹と約束したから早く帰ると、朝から何回聞かされたと思っているのだ」

 ティーダはそれを聞くと、ばつが悪そうに笑う。

「……そんなに言ってたっけ」

「朝から数えて実に、十八回だ。妹を溺愛するのは構わんが、呉々も道を踏み外さないでくれ」

 もう三年の付き合いになる同僚から失礼な事を言われたのは取り敢えず捨て置くことにして、枯れ木のような背中について行く。ティーダはその光景を目に焼き付けるように一度振り返り──── 夕日に染まる屋上を後にした。





──── 新暦六十九年 七月三日

「違法、魔導師ですか」

「そうだ。容疑は窃盗。窃盗とは言っても、盗んだものが問題でな。ウチの研究施設からナノマシン技術を応用した試薬を盗み出した。投与するだけで身体能力の向上、知覚の鋭敏化……しかも副作用は無しときた。全く頭が痛いな」

 上司は忌々しげに顔を顰めると、体格の良い体を椅子へと預ける。ティーダはそんな上司の樣子を見ながら疑問を口にした。

「向上って……どの程度ですか?」

「わからん。……そんな顔をするな。本当にわからんのだ。肝心のデータを出してこんからな。臨床試験はしていた筈だろうになぁ。まぁ、それはいい。肝心の容疑者はコイツだ。いい女だろ? 犯罪者じゃ無きゃ、是非()()()したいくらいだ」

 上司の不適切な言葉にヨハンは、露骨に顔を顰める。二人の上司は魔導師としても、上司としても優秀ではあったが、女癖が悪いのが玉に瑕……と言うよりも、それが全てを帳消しにしてしまっていた。その上、無類の博奕好きでリスクのない人生などつまらないだけだと堂々と公言する豪快な人物でもあった。

「人のケツを覗くのが好きなホモ野郎(内部調査室)も、うろちょろしているらしいからな。ここらで手柄でも挙げて、本局にでも行きてぇもんだ。ここ(首都航空隊)は女っ気が無くていけねぇ。……以上だ」





 休憩室にある自販機から紙コップを取り出し、珈琲という名の泥水を啜る。案の定、泥水のような味がした。実際に飲んだ事はないけど。僕は珈琲の不味さに顔を顰めながら、座りもせず腕を組みながら壁に背中を預けている彼へと声を掛けてみた。

「一体何を目的として開発したんだろうね。超人でも作ろうとしたのかな」

「さて、な。実際に管理局が怖がっているのは、魔導師を簡単に殺害出来る『兵器』と、魔法をものともしない人間だろうからな。……毒を
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