第十六話 〜彼女たちのお話 -ティーダ・ランスターの章-【暁 Ver】
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────── 兄が妹に願う事なんて
ティーダ・ランスター。階級:一等空尉(六年前当時)。所属:首都航空隊。違法魔導師を追跡中に交戦となり新暦六十九年七月七日、殉職。享年二十一歳。彼が亡くなった新暦六十九年は、奇しくも高町なのはが教導隊への入隊を果たし、フェイト・T・ハラオウンが魔導師ランクSを取得し、八神はやてが上級キャリア試験に合格したのと、同じ年であった。
───── 新暦六十九年 七月二日
夕暮れ。そのまま見続けていると、泣いてしまいそうな朱が空を染めていた。人によっては血のような赤だと揶揄するかも知れないが──── その青年にとっては今日の終わりと……明日への希望の朱だった。短めに切り揃えられた髪は、今の空と同じ色で。夏の到来を感じさせる風に遊ばせている。青年は特に何をするわけでもなく理智的な顔立ちを空へと向け、瑠璃色した瞳を泳がせていた。
「ティーダ」
恐らく。青年の名であろう言葉を口にした一人の男が、ティーダと呼ばれた青年の傍に来ていた。年の頃は青年と同じようであるが、長身痩躯で枯れ木のように立っている姿を見た青年は、なぜか鉛筆を想像した。青年──── ティーダは彼へ顔を向けること無く答える。
「ヨハンか。何か用?」
長身痩躯の男──── ヨハンと呼ばれた男は落ち窪んだ瞳をぎょろりと、ティーダへと向ける。
「……何か用ではない。報告書の提出はどうした。期限は今日までだ」
ティーダはその言葉を聞いて驚いたように彼を見た。ついでに困ったように頭を掻く。
「あれ? 明日までじゃなか」
「今日までだ」
ヨハン・ゲヌイトは内心で呆れたように溜息を吐く。このティーダ・ランスターという男は普段はしっかりしているのだが、肝心なところで抜けている事がある。そのことを指摘しても、遺伝かも知れないなどと阿呆な事を言い出す始末だ。そんな遺伝などあるものか。ヨハンはそこまで考えたところで、今度は本当に溜息を吐いた。しかし──── ヨハンがそのおかしな遺伝に気付く事になるのは、もう少し先の話である。
「今日は家に帰るのではなかったかね?」
ティーダは益々、困った顔をする。無理もない。激務が続き実に三日ぶりに家へと帰る事が出来ると思っていたからだ。これ以上──── 家で一人、自分の帰りを待っている妹の事を考えると流石に忍びなかった。そんな彼の様子を見ていたヨハンは、満足げに唇の端を上げた。
「安心したまえ。私が代わりに提出しておいた」
ティーダは最初こそ呆けたような表情を浮かべていたが、次第にそれは満面の笑顔へと変わった。やがて男に言われても、ちっとも嬉しくない事を口走る。
「ナイス、愛してるよヨハン」
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