暁 〜小説投稿サイト〜
剣の丘に花は咲く 
第二章 風のアルビオン
第四話 最後の夜会
[8/10]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
うが、あなたはまだ若い……戦いで死んだことにし、自由になることもできるのでは……。っ、いえ、失礼しました。今言ったことは聞かなかったことにしてください」

 王子の覚悟をまるで無視した言葉に、士郎は慌てて謝った。

 馬鹿か俺は! とうに覚悟を決めた者に何を言っている! なにを……。

 ウェールズは顔を背け、手を強く握り締めている士郎を見ると、小さく、そして優しげな笑い声を上げた。

「っ、はは……ありがとう。実の所、確かにそのようなことを考えたことがないと言えば嘘になる。王家の子として生まれ、毎日休みもなく、王となるための勉学ばかり……何度も考えた……私がただの下級の貴族だったら、ただの平民だったらと……。しかし、今はなぜか、そんな考えは全く出てこないんだよシロウ。なぜだかわかるかい?」
「―――いえ……わかりません」

 ウェールズの言葉に、わからないと答えた士郎だが、本当はわかっていた。昔、彼女も同じようなことを言ったことがあるのだから……。

「仲間だよシロウ……ここに残る貴族たちを見たかね、相手は五万、こちらの死は確実だ……しかし彼らは今ここにいる……こんな王家に忠誠を誓ってくれている。王家の義務、内憂を払えなかった責任、私がここにいる理由は様々あるが、一番の理由は彼らだ…確かに私はアンリエッタを愛している、彼女の願いはなんだって叶えて見せる……そう思っていた、しかし私はその思いを裏切り、彼らと共に戦い、死ぬことを選ぶ。……明日の戦いが歴史に記される時、彼らが逃げ遅れた王家と共に死んだ貴族ではなく、王家と共に、最後まで戦い抜いた貴族と記されるためにっ、私は彼らと最後まで戦うっ!私の誇りたる彼らと共にっ!」
 
 ―――共に戦った騎士たちが、私の誇りです―――
 
「……上に立つものは、やはりどこか共通するものがあるのかな……」

 ウェールズの宣言のような話を聞き、士郎は小さく何事か呟くと、ウェールズの前に恭しく跪いた。

「シロウどの?」
「ご武運をお祈りいたします……」

 士郎の言葉を聞いたウェールズは、微かに笑うと、目をつむり。

「シロウ、頼みがある……ウェールズは勇敢に戦い、勇敢に死んでいったと。アンリエッタに伝えてくれ……それだけで十分だ……」

 そう言うと、ウェールズはテラスの扉を開き、喧騒が響くホールの中心に入っていく。
 ウェールズが去ったあとも士郎はその場から動けずにいた。

 ウェールズ皇太子……あなたの最後の望み……仲間と共に戦い死ぬ……せめてその死が、満足出来るものであることを願います……。
 
 テラスに一人跪く士郎。その胸中をしるものは、夜空に輝く大きな双月も知ることはできなかった。







 士郎は真っ暗な廊下を、ロウソクの
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ