第十五話 〜暗雲来たりて【暁 Ver】
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から自分の出番だとばかりに鳴き始めた彼の声を子守歌にして。そっと瞼を閉じた。
──── 雨かぁ
雨粒がぱらりぱらりと硝子を叩く。彼女の蒼髪を映し込んだかのような綺麗な蒼は。今は灰色の絨毯に覆われてしまっていた。家族に宛てた手紙をぱたぱたと打っていた手を休める。手を休めると、自分の手が視界に入るのは必然で。彼女は同年代の少女よりも、少しだけ無骨な手を煌々と灯る人工的な明かりへと翳した。彼女の戦闘スタイルを考えれば、致し方ない事ではあるのだが。光に翳してみても無骨な手が綺麗になるわけでも無く。彼女は溜息を零しながら、雨脚が強くなってきた窓の外を見つめた。
雨跡残る硝子を見ながら、アスナは雨が嫌いだった事を思い出す。その理由を聞いた時はティアナと一緒に部屋の隅を見つめたものだった。今もきっと。部屋の隅で膝を抱えているか、丸まって寝ているかに違いない。そして彼女は、桐生アスナが何かを抱えているのに気付いていた。親友なのだから何でも話して欲しい。そんな事を考えるが、ティアナ同様に彼女は聞けなかった。恐らく、ティアナ・ランスターと言う名の少女が抱えていた物よりもっと深い。黒き深淵からずるりと這い出した、白き手に引きずり込まれるような。そんな──── 暗闇。
乾いた音が鳴る。二度、三度。彼女は自分の頬を両手で叩く。大丈夫だろう。抱えている物の深さなら──── 負けはしないのだから。全く自慢にならない事に今更ながら気付き彼女は苦笑する。彼女は思い出したようにメールを送信し終えると、冷蔵庫を開けた。とっておきのデザートを両手一杯に抱えると、部屋を飛び出すように件の少女の部屋を目指した。
──── 雨ね
涙雨。ティアナはあの日のことを思い出していた。兄が物言わぬ亡骸となり、もう二度と笑う事も無いのだと理解してしまったあの日も、大粒の雨が降っていた。自室のソファに寝転びながら特に面白くも無い天井を見上げる。何の気なしに首を傾けると、窓際には紫陽花の植木鉢。花を愛でる趣味は無かったが、彼女がくれたものだ。……カタツムリのおまけ付きで。ティアナにとっては、カタツムリとナメクジの違いは家を背負っているか否か程度の違いしかなかったので、丁重にお断りしたのであるが。
今更だが、ティアナは桐生アスナと言う少女の事を考えていた。兄共々、次元漂流者であった事までは聞いている。ミッドチルダでも有数の大企業であるバークリーの人間である事も。だが。それ以前の事は何も知らない。スバルのように何でも話して欲しいなどと言うつもりは無かったが、何も言わない彼女をほんの少しだけ。そう、本当に少しだけ、ティアナは寂しいと感じていた。このまま寝てしまおうかと目を閉じようとする前に、先ほど言われた彼女の言葉が、脳裏
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