第十五話 〜暗雲来たりて【暁 Ver】
[6/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
》? はやては、馬鹿なと思いながら頭を振る。二つと無いからレアなのだ。彼が六課から消え、未だに消息が掴めない事実。そして六課に届けられた荷物に入っていた彼のIDカード。それらの記憶がフラッシュバックする。あの時感じた嫌な予感が、はやての背中を、ぞろりと舐めた──── 悪寒から目を背けるように、窓の外をはやては見る。ミッドチルダに冷たい雨が降り始めていた。
──── ……雨
雨は嫌いだ。数分前から鈍色した雲が大好きな蒼を隠し──── ぽつりぽつりと涙を落とし始めていた。ふと気がつくと、部屋の隅で見知らぬ人間がじっと自分を見つめているような気がしてくる。それをティアナやスバルに話すと、何とも言えない顔をしていたのが思い出される。自分は他の大勢の。自分にとっては然程意味を持たない人間とは、少々違うらしい。あの二人は私が変わったと思っているようだが、私の根本は何も変わっていない。だが、変えようとは思わない。変えてはならない。それは私である証なのだから。
新たな目標も出来た。彼を救う事──── 全ては私の為に。それはとても嬉しい。嬉しいどころか、天にも昇りそうな心地だ。人によっては崇高だと評するかもしれない。だが、それは人が持ってはいけない望みだ。それがどれほど歪んでいるか、彼は。兄は。気付いていない。
それに気付いたのは、ごく最近。何気なく。そう何気なくだ。唯の戯言。意味など無かった。……無かったのに。
──── ……私が任務で死んだらどうする?
──── 全ての者に苦痛を。死よりも辛い快楽を。黄泉路の果てから亡者の嘆きを。私はその後。怨嗟の声を浴びながら命を絶ちましょう。
虚偽でも虚言でも無く。硝子のような笑顔だった。私は、泣きそうになるのを堪えるので精一杯で。何も、言えなかった。私に兄を救えるだろうか。暗闇の中を母親の姿を探す幼子の如く。今はまだ何も──── 掴めていない。
湿気に軋む髪が気になる。少し自慢でもある長い髪を手櫛で梳きながら、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出すと、足でぱたりと閉める。下着しか身につけていない事に今更ながら気付くが、どうしようか考えるも、それも一瞬で。ペットボトルのキャップを捻った時には忘れていた。
ここに来た当初よりも随分と賑やかになった部屋を見渡しながら喉を潤す。デスクに乗っている小さな鉢植えに目が留まった。小さな体に小さな蕾を付けた仙人掌は、どうやら近いうちに花を咲かせるらしい。その時はこれをくれた彼女に真っ先に見せよう。
ペットボトルを簡素なガラステーブルへ置くと、ベッドへと身を投げ出す。色々と考えなければいけないような気がするが今は──── 眠い。私は猫のように丸くなると、雨が降り始めて
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ