第十五話 〜暗雲来たりて【暁 Ver】
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絵柄をあたしから見えるように置いたのは、より強く中身がクッキーであることを印象づける為か。それに、小説の話を持ち出したのも、『言葉』に意識を向けさせる為。思惑通り、あたしはお兄さんの言葉だけに集中していた。
「言葉で嘘をついて騙す方法を教えるとも言ってませんしね。ヒントはありましたよ? クッキーが高級か問われたので、高級じゃないと答えました。クッキーではありませんし、庶民価格ですからね。食べ慣れているとも。私は何一つ嘘をついていません。……場の状況だけで全く嘘をつかず、相手が勝手に勘違いして騙されてくれる状況を作り上げる。そんな方法もあるよ、という話です」
「ヒントって……あたしが、クッキーに関して聞かなかったら」
「その時は、私から話題を振っていました。ヒントとしてね。その為の用意もしてありましたし」
その時、クッキーに意識を向けなかったあたしのミスか。
「……詐欺師。捕まえますよ?」
スクリーンの中でお兄さんが両手を挙げる。
「捕まるのなら、アスナが良いですね」
どちらからとも無く笑い出す。スクリーンの中で笑うお兄さんは、詐欺師とはほど遠く。まんまと悪戯を成功させた子供のようにだった。ひとしきり笑いあった後に、あたしはもう一つのお願いをお兄さんへと話してみた。
あたし達の恩師である、ヨハン・ゲヌイト教官が行方不明となったのだ。あたしには彼が、意味も無く失踪するなどとは思えなかった。そんな人間は既に六課に一人いるので、もうお腹一杯だ。あたしは藁にも縋る思いで、お兄さんへと、あの日のことを。教官があたし達に会いに来てくれた時のことを事細かく話した。
お兄さんはあたしが話し終えるまで何も言わずに聞いていたが、やがてこう言ったのだった。
「ライオンに寄生して食い殺す寄生虫が本当にいるか、否か。アスナに聞いてみて下さい」
「何が起こっとるんやろな」
先週からすでに四件。管理局関連の研究施設が、何者かの襲撃を受けていた。目的は不明。盗まれたものも無く。唯、襲い、暴れ、逃走を繰り返していた。まるで、何かを確かめるように。試すように。
幸いにも死者はまだ出ていないが、重軽傷者を含めて二桁をすでに超えている。監視カメラに残されている映像はジャミングが掛けられている為か、酷くわかり難い。かろうじて女性数人だという事が判別出来る程度だった。だが、八神はやてが気になったのは一つの静止画だった。一人の女性と思われる人間の手のひらから、まるで生きているかのように顕現した──── 氷の竜。こんなものを使う人間の心当たりは一人しかいない。
あり得るのだろうか。映像に残されているのは判別し難いものの、確かに女性。同じ|稀少技能《レアスキル
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