第十五話 〜暗雲来たりて【暁 Ver】
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遊ぶ文学』だと思っています」
お兄さんはクッキーを口へと放り込む。
「誤字脱字は少なく。……そんな文章は誰でも書けるんですよ。知識であり技術ですから。出来て当たり前。言葉で遊ぶ。韻を踏んで言葉を並べてみたり、同じように語呂や語感で言葉を並べてみたり。印象的な言葉の繰り返し。違う場面で違う登場人物に同じ台詞を言わせてみたり。そうやって自分だけの文章を作り上げていく」
どうやら興が乗ってきたようだ。先ほど思った通り、本題とはまるで違う話題だが、お兄さんは良くこういう話し方をする。本題とは違う話を冒頭または途中で話し始めるのだ──── 聞いている人間の思考を本題から逸らす為。恐らく本題に関係あるのだろう。必ずどこかで繋がってくる筈だ。嘘と騙し。あたしは気合いを入れる。それにしても……
「どうかしましたか?」
「随分、高級なクッキーを食べてるなと思いまして。美味しそうですね。デバイスマイスターって儲かるんですか?」
あたしは嫌みを込めて、お兄さんへと毒を吐いた。
「高級ではありませんよ? 食べ慣れた味ではありますが」
高級じゃないとか、食べ慣れてるとか、セレブ発言を返された。それこそ嫌みだ。この人は全く動じないから腹が立つ。
「話を元に戻しますね。登場人物の台詞も重要です。私達が普段使ってる……つまり口語。この口語をそのまま文章に起こしたところで、違和感が出てしまう。小説だけじゃなく、ドラマなどで言う台詞も私達が普段使っている口語とは、違うでしょう? 小説には小説の、言葉や言い回しがあると言うことです」
あたしにはよくわからなかったが、そんなものかと思いながら不味い紅茶を口に含む。そんな時。お兄さんが爆弾を落とした────
「さて、ティアナさんはすでに騙されているわけですが。どこかわかりますか?」
お兄さんの言葉に思考が停止する。すかさず再起動。騙されている? あたしが? どこで? 今までの話が全て嘘っぱち? 違う。人によっては嘘かも知れないが、それは唯単に見解の相違と言うだけだ。そう考えれば、話自体に嘘など無かったはずだ。じゃあ──── あたしはどこに騙されている?
「実は、これです」
そう言いながら、お兄さんがクッキーの箱から摘まんであたしに見せたのは……クッキーではなかった。
「そう。あられとか、おかきとか呼ばれる菓子です。なるべくクッキーと見分けがつき難い物を選んでいました。クッキーの缶に入っているからといって中身がクッキーとは限りません。そちらから見えるように蓋を缶に立てかけて置きましたしね、絵柄と店名が見やすいように。この時点でティアナさんは、缶の中身に疑問など抱かなかったでしょう?」
蓋の店名や
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