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空を駆ける姫御子
第十五話 〜暗雲来たりて【暁 Ver】
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った水のような味がする。実際に飲んだ事は無いけど。紅茶の不味さに顔を顰めているとやがて。待ち人の姿が、スクリーンに映し出された。

「人を騙す方法、ですか?」

 お兄さんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。そりゃぁそうよね。普通こんな事を妹の親友に聞かれるとは思わないだろう。

「はい。あたし達は魔法を使って、どんぱちするだけじゃありませんから。そういった技術も憶えていなければいけません。ご迷惑でしたか?」

「いえ、決して迷惑では無いのですが……確かに駆け引きも必要ではありますが。どうして、それを私に聞いてくるのか……何か釈然としないのは気のせいでしょうか」

 お兄さんはそう言いながら、作業用のデスクに載っていた金属製の箱の蓋をぱかりと開ける。蓋にはこちらまで香りが漂ってきそうなクッキーの絵が描かれていた。蓋に書かれている店名も、あたしが買うのに躊躇するくらいの有名な洋菓子店のものだ。蓋をこちらへ見せるように置くと、お兄さんはクッキーを一つ摘まみ上げ、口へ放り込んだ。

「ふむ。ティアナさんのお願い事ですから、断る理由もありません。そうですね……ティアナさんは本をお読みになりますか?」

「雑誌、ではないんですよね? はい、それなりには」

「小説というのは人類が生み出した最高の娯楽です。ものによっては教養や知識を身につける事が出来ますし、感受性も良くなり語彙も増えます。そうなれば豊かな文章を書く事も可能でしょう。そうですね……」

 お兄さんはそう言うと紙を取り出し何事かを書き始めた。そして書いた文章をあたしへと見せる。話している内に主題からどんどん話題が外れ、最終的に煙に巻いてしまうのが、この人の常套手段だ。

『僕は目覚ましの音で目を覚ますと、大きなあくびをしながら目覚ましを止めた。ベッドから降りて部屋のドアを開けリビングへ行くと、朝食がすでに用意されていた。僕はお母さんに挨拶すると朝食を食べ始めた』

「小説の文章として、どこかおかしなところはありますか?」

「……いえ、特におかしなところは無いと思います」

「では、こうしてみましょうか」

 お兄さんは先ほどの紙へ一文を書き入れると、再度あたしへと見せた。

『3月16日 天気 晴れ
僕は目覚ましの音で目を覚ますと、大きなあくびをしながら目覚ましを止めた。ベッドから降りて部屋のドアを開けリビングへ行くと、朝食がすでに用意されていた。僕はお母さんに挨拶すると朝食を食べ始めた』

──── 日記だ。

「そうですね。日記若しくは作文。実のところ、日記や作文と小説の違いは非道く曖昧ではあるのですが。昔の純文学には正に日記のようなものもあります。尤もそれらのものは言葉の言い回しが、とても美しいのですがね。私は小説とは『言葉で
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