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《SWORD ART ONLINE》〜月白の暴君と濃鼠の友達〜
プロローグ
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夜の風が森の空気を揺らす。

梢を通して差し込む月光が、大地で水面のように踊り、一面に咲いた葵い花々を幻想的に彩った。朧月の見せる一夜限りの芸術品だ。

幼い少女は枝と葉っぱを透かして、空に浮かぶ真っ白な月を見た。層、と呼ばれる巨大な大地が、塔のように百も連なっている異常の中でも、月は存在するし、朝になれば太陽も昇る。それは仮想空間を限りなくリアルに近づける工夫、あるいは囚人の正気を保つための措置に違いなかった。

囚人の一人である少女は、まるで付着した血を払うかのように、手にした刃をビュンと一振りした。彼女の周囲には、既に事切れたモンスターが無数に転がっている。ガラス玉と化した生気のない瞳は、皆こぞって少女を睨みつけていた。

次の瞬間、パリン、とモンスターらの姿が砕け、ポリゴンの輝きとなって宙を舞った。削除されたのである。痕跡を一切残さない簡潔な終演は、死と表現するのも烏滸がましい。その悲しげに瞬く残滓の光に囲まれ、悠然と佇む彼女は、もはや人外の美しさをもった何かだった。

少女は桜色の唇をちょっとだけ開いた。真珠のような歯の中で、二本の犬歯だけが妙に目立つ。

「・・・・・・子供の遊びだな」

心底つまらなそうな雰囲気で少女は言った。他の人間がこの場面に遭遇したら、彼女の言動に耳を疑うに違いない。命がけの戦闘を”遊び”と評して平然としていられる彼女は、それだけ異質な存在だ。

シャランッ!

不意に発生した軽やかな音に、少女は耳をぴくりとさせて、素早く辺りを見渡した。視界の中に映るのは、淡い月光に照らされた大地と樹木。そして中央の苔生した巨木の近くに、少女はそれを見つけた。

人間と呼ぶには余りにも異形。しかし、獣と呼ぶには人間の面影を色濃く感じさせるモンスターだった。

毒々しい緑色の肌に曲がった背筋。手足こそ短いが、鎧を纏うガッシリとした体つきを見る限り、相当な膂力を隠し持ってそうだった。顔は思わず目を背けたくなるほどの醜悪さである。黄ばんだ瞳がぎょろりと少女を睨みつけた。

《ホブゴブリン》と呼ばれる亜人型モンスターだった。

「オォアァ!」

モンスターが咆哮を上げる。少女は微塵も臆することなく、昆虫か何かを観察するような様子で、《ホブゴブリン》をじっと見つめた。同じモンスターでも《ホブゴブリン》が携行している武器は毎回異なる。今回の獲物は斧だった。凶悪な武器を振りかざすモンスターの前では、小柄な少女は如何にも頼りなく、より一層儚げに見えた。

それでも彼女の手にした刃が、ついとモンスターに突きつけられた。切っ先は少女の瞳と同じように、冷たく硬質な光を放っている。この小さい女の子から、謎の圧力が放出され、周囲の空気がきりきりと張り詰めていった。

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