そして彼の道行きは
プロローグ
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「ええ、そうです。“0”とでも言いましょうか」
俺は目の前のチェアに、自然と腰を下ろす。
先程の不明瞭な存在の事について訊ねると、少女は是と頷いた。
今度は明確に、目の前の存在を認識出来た。十代半ば程の黒髪に翡翠の瞳をした、深窓の令嬢という言葉が似合う容貌の少女。
“0”と彼女は自らをそう自称し、薄く笑みを浮かべた。
「そうか、それはどうもご親切に」
何とも“願い事はあるかい?”と、聞かれそうな名前だな。
某ライトノベルの、謎の存在が頭に浮かんだ。
「あら。解りますか、この小説ネタ」
そう言い、少女は嬉しそうに微笑んだ。
そうして、何も無い虚空より一冊の文庫本を手に取った。
少女は何も無い虚空から物質を取り出した。
まぁ、夢ゆえか、そんな荒唐無稽もアリなのだろう。
取り出した文庫本へと視線を移す。
―――『空ろの箱と零のマリア』
「…まぁ、“生前”読んだ事があるし、ファンだからな作者の。」
……んっ?
そこまで言葉を言って、漸くその誤認に気が付く。今、俺は何と口にしたか?
「……生、前?」
訝しむ様に、その言葉を発して反芻する。
おかしい、思考に誤りがある。俺は今夢を見ているのだ。
―――だが、頭がその発言の意味を理解したく無い様に、痛みに苛まれる。
あぁ、嫌だ。認めない。そんな考えがばかりが頭を逡巡する。
これではまるで―――
「これではまるで、自分が“死んだ”みたい、ですか?」
「……あぁ、まぁ」
少女は此方の思考を読み取ったのか、そう告げる。
そうして、無慈悲にもその言葉を口にした。
「単刀直入に言いましょう。貴方、死なれたのですよ」
その少女の発言。
それにより、頭に掛かっていた霧の様な靄が払われて、記憶の空白が埋まって行くの感じ取った。
1
俺こと暮桜霧嗣が生前の、死亡した時の記憶を取り戻したのは彼女のその宣言の後であった。
まるでパズルのピースが嵌っていく様に、失われた記憶の空白が埋まって行く。
俺の死亡原因は、何とも有り触れたものであった。
信号無視をしたトラックが横断歩道に突っ込み、女の子を庇った事により死んだのだ。
“あの状態”の俺ならば。
横断歩道までの距離が100あったとしても、瞬時に女の子を庇ってトラックの魔の手から逃れる事も容易であっただろう。
だが、その時はそうはいかなかったのだ。
まるで重力に引かれる様に、その場から動じる事が出来なかった。
その結果。トラックに轢かれて、助けるつもりが死亡してしまった。
「…なぁ、“神様”」
「
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