第1部:学祭前
第5話『迷走』
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「伊藤君!」
コンビニ近くで誠を見かけ、唯は駈け出した。
しかし目の前で、世界が先に誠の腕に飛びつく。
「あ…………」
「これで、わかったでしょう?」
唯の前に、短髪でボーイッシュ、長身の女子学生が現れる。
唯はその子が、以前ムギの言っていた甘露寺七海であることに、すぐ気付いた。
「伊藤には、すでに西園寺世界っていう彼女がいるんですよ。無礼だとは思いますけど、貴方みたいなのにウロチョロされると、困るんですよね」
「そ、そ、それは……。で、でも……」
見下ろされるような鋭い眼光に、唯はたじろいだ。
「伊藤に近づかないでくださいな」
低い、ドスの効いた七海の声である。
とても近づくのは無理。
唯はそう感じて、すごすごと七海から離れた。
「あ……。別に落ち込まなくていいですよ。
伊藤にちょっかい出さなければそれでいいんですから。放課後ティータイムの演奏、楽しみにしてるって、世界言ってましたし」
七海は唯に同情したのか、うって変わってねぎらいの言葉をかける。
しかし、唯の耳に届くことはなかった。
「光、そっちのほうはどうだ?」
七海は、同じく世界と誠を見張っていた光に声をかけた。
「桂が来たわよ」
光は、ツインテールをイカリングのように留めた独特の髪を気にしつつ、答えた。
「案の定、来たか」
「あいつ、全然読めてないわね、今の状況。『西園寺さんは誠君の彼女ではないです。誠君の彼女は私です。』なんて言ってるし」
「ったく……まあ、中学時代からムカつく奴だったけどさ、桂の奴」
「しっかし、世界の頼みとはいえ、何で私が伊藤のお守をしないといけないのかしら」
光がため息をつくと、七海はニッコリ笑顔を浮かべ、
「何言ってんだよ。世界がそれで幸せならば、それでいいじゃないか」
「そう……」光はいささか不満げの様子で、「平沢って子のほうは、来た?」
「来たよ。私が止めに入ったら、すぐにがっくりして行っちゃったけど。さすがにちょっと可哀そうだったな」
誠は、刹那の視線を感じ取った。
「……」
「どうしたの、誠?」
世界が気づいて、眉をひそめる。
「いや……清浦も、甘露寺も、黒田も、さっきから俺たちにまとわりついて、なにやってるのやら……」
「私たちの仲が気になるんでしょう。みんな友達思いだから」
素知らぬ顔で世界は答える。実を言うと彼女自身が頼んだのだが。
唯や言葉が、誠に近づかないようにと。
「あれから見かけなくなったな……。言葉も、平沢さんも」
世界は疑惑の目を彼に向け、
「……誠の彼女、私じゃないの?」
「え……? あ、ああ。」
「あの2人がいると、不安になるの」
「そ、そうか……ごめん…………」
例のコンビニにつくと、いつもの
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