閑話2 〜日常の喧噪【暁 Ver】
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いた。
「……はやて」
「なんや、アスナちゃん。八神商店は開店休業中や。今来ても飴ちゃんしか出てこないで」
「……潤いを届けに来ました」
桐生アスナという少女を知らない人間からしてみれば、いきなり家に押しかけてきた挙げ句に『アナタハ、神ヲシンジマスカ?』と言われたとのと同じぐらい唐突ではあるが、幸いにもここにはそんなビギナーはいなかった。アスナの言葉に八神部隊長は少しだけ期待を込めた瞳をしながら上半身を起こすと、アスナへと尋ねた。
「なんや、彼氏でも紹介してくれるんか?」
「……それは、私の手に余ります」
身も蓋もない言い方ではあるが、事実であるので仕方がない。無い袖は振れないのだから。そもそも八神部隊長だけではなく、なのはさんとフェイトさんにしても男の噂などさっぱり聞いたことはない。その所為で、なのはさんとフェイトさんなどは、あの二人はデキているなどという不名誉な噂が立ち、二人ともいたく憤慨していた。
八神部隊長は一言で要約すれば『ムリ』というアスナの言葉を聞いて、倒れるようにソファへと沈み込むと再び沈黙の行へと戻った。アスナはそんな八神部隊長に少し不満げな樣子で、彼女の柔らかそうな頬をぺしぺしと叩く。
「わかった、わかったから。叩かんといて。で? 何を見せてくれるん?」
「……これ」
アスナの手に握られていたのは噴霧器の付いた瓶だった。香水の小瓶が一番近い形状だろうか。アスナはそれをテーブルに置いてあった紅茶の空き缶へ吹きかけようとした時、八神部隊長が待ったをかけた。
「ちょう待ち。……危ないもんやないやろな?」
「……だいじょうぶ。ここに来る前にも、実験した」
アスナはそう言いながら、何の躊躇いもなく空き缶へと吹きかけた。
「何も起きへんで?」
「……さわって」
「え? アスナちゃんに『触って』なんて言われたら、興奮するわ。胸か」
「八神部隊長?」
「ティアナ、冗談やて。放送でけへん顔になっとるよ。キャロもいるんやから、そないな卑猥なこと出来るわけないわ」
八神部隊長は白魚のような細い指を空き缶へと伸ばし──── 触れてしまった。
『あん!』
──── 卑猥だった。部隊長室に沈黙の帳が落ちる。八神部隊長は意味もなく窓の外を眺めた後、アスナのすまし顔を見つめた。
「アスナちゃん?」
「……潤い」
八神部隊長は敵を前にした司令官のような面持ちで、再度触れる。
『ん! ダメ!』
──── 触れる
『いや! やめて!』
──── 触れる
『これ以上触られたら……い』
「い?」
『……いぎゅ』
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