閑話2 〜日常の喧噪【暁 Ver】
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恐らく丁寧に説明してくれたのだと思うが、益々わからない。キャロの頭の上には本格的にクエスチョンマークが踊り出している。八神部隊長はあたし達の樣子を見て取ると、気怠げに立ち上がった。
「しゃぁないなぁ。ちょう待っとき」
出来の悪い子供を見るような顔をされたのが少々腹立たしくはあったが、キャロの手前怒り出すのも大人げないような気がしたので、大人しくする事にした。八神部隊長は一枚の真白な紙を取り出すと、今にも鼻歌を歌い出しそうな風情でペンを走らせる。やがて彼女は満足げな樣子で、あたし達に紙を差し出した。恐らく、『ちょこぼ』なるモノを書いたのだろう。この状況で全く違うモノを書いたのだとしたら、正気を疑ってしまう。
あたしとキャロは興味深げに紙を覗き込んだ。そこには、正気を疑うような物が描かれていた。暫しの沈黙の後、キャロが口を開く。
「えっと、大きなペンギンさんですか?」
八神部隊長を傷つけないように言葉を選んだキャロに、あたしは心の中で拍手を送った。だが、その優しさは却って相手を傷つけてしまう事があるというのを、キャロに教えてやらなければいけない。そう、あたしが悪者になるだけでいいのだから。
「八神部隊長のセンスには目を見張るものがありますが、残念ながら前衛芸術はちょっと」
「もうええわっ」
八神部隊長はそのまま、来客用のソファへ不貞腐れたように横になってしまった。キャロがあたしを非難がましい目をして見ている。おかしい。感謝されると思ったのに。あたしは肩を竦めてみせると、一番効率が良く一気に問題を解決できる一つの提案をキャロにしてみた。
「もう、『そんなの喚べねーから』って言えばいいんじゃないかしら」
「それが出来ないから困ってるんじゃないですかっ。凄く期待してる子供みたいな目で見てるんですよ!」
キャロは紅葉のような小さな手を握りしめながら、自分が座っているソファを叩く。多分怒っているのだろうが、可愛らしいばかりで全く怖くない。些細な事ではあるが、キャロの中でもアスナは年下認定らしかった。
「もしかしたら、しょんぼりして泣いちゃうかも知れません」
「泣いちゃうかもって……泣くか泣かないかの、ぎりぎりの表情を楽しむのがいいんじゃない。いいわよね? あれ」
「同意を求められても困ります」
キャロのつれない返答にあたしは再度、肩を竦めてみせる。悩める乙女二人が、どうしたものかと思案顔をしていると、部隊長室のドアが何の前触れもなく開き、一人の少女がふらふらと入ってきた。件の少女──── 桐生アスナその人である。
キャロはアスナの姿を認めると幾分落ち着かない様子を見せたが、アスナは特に気にも留めず、哀愁を漂わせながらソファにごろりと横になっている八神部隊長へと近づ
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