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最後列
第一章

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 種田朋子は小柄だ、童顔でもあり年齢を間違えられることが多い。
 その小柄ら故にだ、高校で並ぶ時はいつも一番前だ、朋子はこのことについていつも友人達に困った顔で言う。
「いつもね」
「列の一番前だっていうのね」
「そう言うのね」
「幼稚園の時からね」 
 まさにその時からだった。
「私いつも一番前だったのよ」
「それ以外になったことは?」
「それはあったの?」
「なかったわ」
 本人の記憶にある限りなかった。
「一度もね」
「一番前から移動したことないの」
「今もそうだし」
「そうなのよ、これってね」 
 どうかとだ、その童顔を曇らせて言う。
「あまり気分よくないから」
「ううん、そうなのね」
「やっぱりいつも一番前だと」
「この気持ちはね」
 どうかというのだ。
「前にいないとわからないから」
「ううん、じゃあ一番後ろにいたいと思うことも」
「やっぱりあるのね」
「いつも思ってるわよ」
 これが朋子の言葉だった。
「本当にいつもね」
「ああ、そうなるわよね」
「予想ついてたけれど」
「一回本気で思うわ」
 その一番後ろになりたいというのだ、そして朋子が思っていることはそれだけではなくこうも思っていたのだった。
「それでね」
「それで?」
「それでっていうと?」
「いや、背ってね」
 その童顔で言う、見れば。
 黒く長い髪を後ろで束ねている、それで背中に何とかかけない感じにしている。大きな目だ、眉は薄めで綺麗なカーブを描いている。口は大きめだ、肌も綺麗で張りがありそうしたところからも幼さを感じさせる。
 高校生の制服でも小柄なせいで小学生に見える、その彼女が言うのだった。
「欲しいと思っても」
「駄目っていうのね」
「駄目っていうかね、中々ね」
 努力はしている、それでもだというのだ。
「大きくならないのね」
「まあそれはね」
「これでも毎日牛乳飲んでね」
 成長にいいというそれをだというのだ。
「身体も動かしてるのに」
「バレーボール部だったわよね」
「そう、けれどね」
 だがそれでもだった、やっていると背が高くなると言われているそれをしていてもだというのだ。
「ずっとね、こうだから」
「今朋ちゃん身長どれだけなの?」
「一四六よ」
 友人達にこの数字を言った。
「もうね、一五〇ないから」
「だからなのね」
「余計になのね」
「背が欲しいのね」
「後ろにいたいのね」
「うん、いつもそう思ってるわ」
 こう言うのだった。
「それでね」
「一番後ろにいたいのね」
「そうなのね」
「一度でもいいから」
 朋子のささやかだが切実な願いだった。
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