第一章
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混ぜもの
藤田瑛久は今やリーグを代表するエースである。
細い豊かな茶髪をショートにしている、黒い瞳の光は強く眉は少し上に上がっている感じだ、白い顔に細長めの顔を持ち顎の形はいい。
背は一七三程と野球選手、それもピッチャーにしては小柄で尚且つ線も細い感じだ。しかし足腰はかなり強くこのことには定評がある。
アンダースローから繰り出すストレートとシンカー、それにカーブとシュートが彼の武器だ。特にシンカーが凄い。その投球フォームと持ち球から山田久志二世とも呼ばれる。
安定感もあるピッチングでファンからも選手達からも信頼が篤い、だがその彼にも一つ弱点があったのである。
その弱点は何か、この試合七回一失点でマウンドを降りる彼を観てファン達はいささか残念そうに話すのだった。
「またか」
「ああ、スタミナ切れかよ」
「藤田って本当に完投ないよな」
「いつも七回とかでエネルギー切れだよな」
「それで交代になるんだよな」
「後は中継ぎ、抑えの仕事になるからな」
「確かにいいピッチャーだけれどな」
リーグを代表するエースだ、その力量は確かだ。
しかし問題はスタミナだ、ファン達はこのことを言うのだ。
「勝利数の割に完投少ないよな」
「というか完投ないぜ」
「ランニング中心のトレーニングで体力には問題ない筈なんだけれどな」
「それで何でいつも途中で降板するんだろうな」
「そこがどうもな」
「わからないな」
こう話す彼等だった、彼の欠点はスタミナだ。それが今一つなのだ。
このことは監督も投手コーチも問題にしていた、それで監督はある日コーチに彼のスタミナ不足について尋ねたのだった。
「中五日で七回までというのがな」
「それだけだと充分にしてもですね」
「ああ、もう少しスタミナが欲しいな」
瑛久にだというのだ。
「そう思うんだがな、体力育成のトレーニングはしているんだな」
「それは欠かしていませんね」
彼は練習熱心な方だ、とにかく走ることが多い。
それで体力はある筈なのだ、年齢も二十五でまだまだこれからだ。しかしそれでもなのである。
「もっとな」
「もっとですね」
「そうだ、どうしてスタミナが完全じゃないんだ」
「どうやら」
コーチはその理由を話した、それはどうしてかというと。
「あいつ偏食なんですよ」
「偏食!?」
「はい、肉を食べないんですよ」
「肉を食わないのか」
「そうなんですよ」
「牛だけじゃなくてか」
「全く、豚も鶏も羊もです」
とにかくだ、肉となると全く食べないというのだ。
「魚は食べますが」
「肉はスタミナがつくんだがな」
「けれど肉はです」
その肉をだ、彼は全く食べないというのだ。
「何一つとして」
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