第一章
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我等太平洋人
大阪難波にあるその飲み屋は所謂エスニック料理が売りだ。だがこうした店でよくあるアジア料理だけではない。
今太田大和はカウンターでビールを肴に飲んでいる、店の中は日本の七十年代のムード歌謡曲が流れている。
背は一八〇近くがっしりとした感じだがわりかし均整の取れたプロポーションだ、肉体労働をしているのがその身体つきからわかる。
少し浅黒い肌に薄い眉、一重のしっかりとした目であり鼻と口もしっかりとしている。ただ口元には優しい微笑みがある。
髪の毛は黒い剛毛を薄いアフロにしている、その彼がビールと一緒に肴を食べながら口髭にリーゼントといういささか古い格好のこの店のオーナー兼シェフである廣澤正智に言ったのである。
「このハンバーガーだけれどさ」
「美味だろう?それ」
「アメリカだよね」
そのハンバーガーが何処の国の料理かというのだ。
「そうだよね」
「言うまでもないことじゃないかい?」
これがマスターの返答だった。
「ハンバーガーが何処の国かは」
「まあね。けれどさ」
「エスニック料理店だからね」
だからだとだ、マスターは笑って言うのだった。
「何でもあるんだよ」
「アジアだけじゃないんだ」
「うん、アジアだけがエスニックじゃないからね」
だからだというのだ。
「こうしたこともあるよ」
「そうなんだ、だからこの店にはタコスもあるんだ」
「アジアだけじゃないよ」
「成程ね、それじゃあね」
大和はマスターの話を聞いて納得した、そして。
彼は一旦傍にあったメニューを見た、そのうえでこれを頼んだ。
「そのタコスとね」
「追加オーダーだね」
「それと生春巻き、水餃子もね」
「わかったよ、その三つだね」
「後はビール大ジョッキで」
それもおかわりだというのだ。
「それを頼むよ」
「わかったよ、じゃあね」
「あとさ、僕この店にずっと一緒にいるけれど」
どうかとだ、ここでまた話す大和だった。注文を終えた彼は店の中を見回してこうも言ったのである。
「この店は色々な人が出入りするね」
「難波も色々な人がいるからね」
「いるのは日本人だけじゃないね」
「面白いよね」
「そうだね、僕沖縄生まれだけれど」
沖縄生まれで大阪には大学進学を期に出て来たのだ、今は工場で働いている。
「沖縄ってアメちゃんの基地があるじゃない」
「何かと話題になってるね」
「そう、それでアメリカ人は見慣れてるけれど」
「白人に黒人もだね」
「ヒスパニックもね。けれどここにいるのはアメリカ人だけじゃなくて」
無論アメリカ人もいる、だが店の中にはアメリカ人だけではない。
明らかにアジア系とわかる顔で中国語で四人位で楽しく飲んでいる面々もいれば褐色
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