第四章
女教師曰く、彼は叶わない理想を抱くロマンチストである。
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違うかもな、君の場合。君は執着しないことに拘って、生きることに価値を求めていながら、その実は余りにも清々しい、価値の無い《終着》を欲している。プラスを求めているのに、マイナスに救いを求めたがる。不幸でも真っ当な理由を求めるくせに、理由の無い《安楽》を望んでいる。……実に矮小な矛盾だ」
「知りもしない癖になぜ分かる。あなたは何を達観しているつもりなんですか、バカらしい。説得力云々ではない。理解し難く、聞く価値もない台詞をぬけぬけと吐き出す。そもそも、他人にわかってもらいたくなどない。それ以前に僕の心中を他人が言い当てたところで、そこには過程がない。意味がない。価値を感じない。……故に何も変わりません。意味もなく消えたいです」
僕は言った。
心中とか、自分とか、感情とか、人とか、関係とか、概念とか、全てが鬱陶しい。哲学ってなにさ?
五月蝿い。騒ぐな。僕は何も考えたくない。思考を止めろ。僕には何もない。故に僕が想う《節》はない。
「先生。僕は、何も、思考、考えたくありません。早く僕を助けてください。普通に生きられなかったので、殺してください。いえ、殺されるのは癪なので、僕を終わらせてください」
「死ぬのが嫌だから無条件に終わらせろ、だなんて子供の考え方だよ桐山。人生はゲームではない。生きるのにも、もちろん死ぬことにも、痛みが伴う。痛みのない、逃げ道はないよ。言うまでもなく、それは死に方には関係なく、ね……」
平塚先生は表情を一転し、優しげに諭してきた。
僕はただ俯く。真っ白い眼球には、燦々と白い床が乱反射していた。目が、見ることを拒み始めていた。
――《無囲色》。僕がそう名付けたソレは、目や耳、触覚や味覚、その他様々な感覚器官が、情報を得る必要を失いつつある生活の中で活動を鈍化させることにより、《景色を見ること》《音を聞くこと》などの情報を取得する行動に支障をきたした状態のことを言う。その状態になると周囲の色は無色に近づいていき、音は遠退いていく。そして段階を積み、終いには《感覚》を手放す。その気にならなければ意識を手放すこともできるだろう。
きっと、できてしまうことだろう。
「ならせめて放っておいてくれませんか?痛いんです。誰かに、誰かに今の自分を押し付けるのは……」
「優しいね、君は。そんな君を放ってはおけないよ。まだ諦めてはいけない。――それと、由比ヶ浜の件だが、話は聞いている」
本人から……かな?
知らないな。聞きたくないな。面倒だ。――早く、帰らなければ。
「君はきっと罪悪感を抱いたことだろうな。何せ、純粋な少女に向かい、《騙されていてくれ》なんて馬鹿げたことを、その相手の気遣いでもって、成り立たせたのだから。……さぞかし良心が痛むだろう。いや君に良心はもう無いのか」
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